現代イスラーム思想の源流/飯塚正人


 世界史リブレット69巻目。現代イスラーム思想の、前史を含めた概説。
 
 著者は現代イスラーム思想の状況を「百家争鳴」と書く。西洋の進出に伴う危機によって、先人の偉業と伝統的な解釈を墨守することを嫌う運動が盛んになると、何が正しいイスラーム解釈で何がそうでないのか、様々な主張が現れた。本書は、その流れをまとめたものである。

 まず前史からはじめ、ハワーリジュ派やシーア派の成立とそれに伴うスンナ派の思想整備、そして新たな法解釈・イジュティハードが生まれなくなっていく思想の硬直化(これが後に近代で足かせとなる)などが述べられる。
 この状況から脱するための脱伝統解釈(タクリード批判)は歴史的イスラーム世界の周縁部であるインドで始まった運動がきっかけのようだが、本来のイスラームとは何だったのかを問う姿勢は、各地へ波及していき、18世紀のイスラーム思想界は活況を呈していたという。西洋の進出によって、この問題はさらに危機感を帯びたものとなり、様々な思想潮流が現れる。サラフィー主義の出現やカリフ制の廃止にともなう激動が、現在まで影響を及ぼしているようだ。

 同じ世界史リブレットの『イスラーム世界の危機と改革』がやや地域研究めいているのに対し、当たり前であるが本書はタイトル通り、よりイスラーム思想の議論に踏み込んでおり、二冊読むことによって理解が深まるだろう。
 個人的には、復古主義的なイメージのあるシーア派の現代イランがいかにして議会の導入をイスラームの文脈の中で正当化しているかや、ワッハーブ派が、イスラームを「本来の姿」に近づけようとしたあまり、伝統的な法解釈を否定し、イスラーム革新への道を開いてしまったこと(同じようにして、世俗化に抵抗しようとしたムハンマド・アブドゥフは世俗化への道を開いてしまう)などが印象に残った。
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鉄勒京二

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