王宮炎上/森谷公俊
アレクサンドロスによるペルセポリス放火を主題とした本。
歴史文化ライブラリーの数少ない西洋史本の一冊。
森谷氏はアレクサンドロス研究に関する本を多く出している研究者であるが、本書はアレクサンドロスの評伝というわけではなく、各論寄りでペルセポリス放火をどう解釈するか(衝動的だったのか計画的だったのか、計画的だったとしてその目的・動機はなんだったのか)をメインテーマとしている。とは言っても、アレクサンドロス研究において使われる史料の性格や、関連する先行研究などについて比較的詳しく、読みやすいこともあり、ペルセポリス問題に限らずアレクサンドロスに興味があれば役立つ話題に富む。
本書では先行研究を比較しながら、考古学の報告とも突き合わせ、著者なりの見解を出すという方法を取っている。理論展開ははっきりしており、森谷氏の本の例に漏れず分かりやすい記述となっている。
個人的に面白かったのは、ペルセポリスの解説の部分で、ペルセポリスの浮き彫りの政策に携わったギリシア人で、どうやらパルテノン神殿の製作に携わった者がいると推測されていること(美術史方面からの指摘らしい)、また、アギス戦争(アレクサンドロスが東方遠征で留守にしている間に起こったスパルタによる対マケドニア戦争)の影響力の評価が研究が進む中で大きくなってきたこと(ただし、森谷氏はアギス戦争がペルセポリス放火の主因だとは考えていないようである)などなど。
ペルセポリスに対する放火という一事件のみを中心に据えているのではあるが、そこから見えてくるものは多く、なかなか面白い本であった。