普仏戦争/松井道昭


 普仏戦争通史。副題は「籠城のパリ132日」。著者はどちらかと言えばフランス側が専門の方のようである。
 
 管見では本書以前に普仏戦争そのものを扱った概説・通史と言ってぱっと思いつくものがない(ナポレオン3世やビスマルク、モルトケらの評伝ならばあるが)。王朝戦争から国民戦争への転換期の戦争であり、またこの戦争の帰結としてプロイセンによるドイツ統一が成った重大な出来事であるがゆえに、この戦争を総体的に把握できる本書は貴重な本であると言えるだろう。
 本書は戦争の展開に置かれるウェイトももちろんのこと大きいが、単に軍事史・戦史を扱った本ではなく(そもそも著者も自身が軍事史に詳しいわけではないと断っている)、本文中の言葉を借りれば「国際政治・外交、国内政治、経済、法制、社会、心理などの要素を絡ませて」普仏戦争を描き出している。以前紹介した『ドイツ史と戦争』で提示されていた「戦争史」という分野に近いのだろう。
 
 記述されている具体的な史実に目を移せば、フランスの戦争に対する準備不足とプロイセンの緻密な軍事計画の対照性に驚く。特にフランスの単線鉄道の無計画な使用は終点で列車が在り余り、始点でまだ前線へ向かわねばならない兵士や物資があるのに列車が底をつくような事態となっていたようだ。
 また、フランス国内において開戦、そして継戦を望む民衆と、彼らが革命を起こすことを怖れ、不本意ながらも戦闘を継続させざるをえない政府との関係など、興味深い(特にナポレオン3世退位後、この関係はさらに混乱を増す)。
 また最後の第14編では、普仏戦争の軍事史的意義と題して、普仏戦争の各要素が持つ王朝戦争的性格・国民戦争的性格が論じられている。ここでは後の第一次世界大戦への展開ともあわせ、普仏戦争の位置づけがよくわかる。単に事実の羅列のみに終わっていない部分である。
 
 ところで、昨今、河出(河出ブックス)、筑摩(筑摩選書)、中公(中公選書)、岩波(岩波現代全書)と選書シリーズの創刊が相次いでいる。新書がなんでもありの状況になる中で新書と学術単行本の間を埋め、かつて新書が担っていた教養書の枠組みを担うものとして選書に光が当たっているらしいが、かつての新書創刊ブームの時とは違い、各大学も選書レーベルを創刊している(京大・学術選書、阪大・阪大リーブル、大阪市立・大阪市立大学人文選書など)。本書は横浜市立大学新叢書の一冊目に当たるが、専門的すぎる分野を一般読者に噛み砕いて伝えてくれるシリーズが増えることは歓迎したいところである。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ