近況と最近読んだ本など

 家の近くで彼岸花が咲いていましたが、まだ日中は暑い日が続いています。

 前から気になっていた『センゴク外伝 桶狭間戦記』を大人買いして読みました。最近のトレンドというか今川義元の評価が高い他、経済や小氷期(いわゆる「17世紀の危機」をもたらしたものと同一)に注目している点が面白いところ。新旧の学説、そして俗説、さらに作者の独自解釈と、その取捨選択がなかなかに見事(当たり前ですがマンガや小説では面白ければ俗説を取ってもいいのです)。かなり楽しめたので本編のほうもいずれ手を出したいと思います。
 また、メチエと学術文庫を出している講談社学術図書第一出版部がいつの間にかTwitterアカウントを作っていたようで、講談社の学術関連の新刊情報などをチェックするに便利になっています。

 あと、TBSとベトナムのテレビ局VTVが共同で日越国交樹立40周年記念ドラマを作っているようです(サイトはこちら)。ファン・ボイ・チャウや東遊運動のあたりの時代を扱うようですが、さてはて一体どんな出来になるのか。

 以下、最近読んだ本

■田中克彦『ノモンハン戦争 モンゴルと満州国』
 田中先生は言語学、モンゴル学の人だそうですが、ちょくちょく近代中央・北ユーラシア史に関する本を出していて、こないだ『「シベリアに独立を!」』という本が岩波現代全書で出たりしています。
 本書はタイトルでノモンハン戦争(モンゴル人民共和国と満州国の国境紛争。著者はあえて「事件」とは書いていません)と言いつつ、専らこの出来事に関して興味の集まっている軍事史・戦史などから距離を置いて、当時のモンゴル人民共和国、そして彼らに対するソ連の動向と、満州国内のモンゴル系の人々の内情にかなりページが割かれています。モンゴル人民共和国はソ連の衛星国家であったと言われ、当時のモンゴル人指導者たちがいかにソ連に抵抗しようとしていたか、また汎モンゴル主義はいかにソ連に危険視されていたかなど、普通は欠けがちな視点からの記述が大変興味深いところです。
 いささかモンゴルに肩入れし過ぎで熱く語りすぎているのではないかと思う部分もありますが、なかなか面白い本でした。


■岡本隆司『近代中国史』
 以前紹介した『李鴻章』の岡本先生の新刊。タイトルは近代中国史ですが、経済史寄りの視点であり、かつなぜ近代中国がああだったのか、ということを考えるためにそれ以前の中国史から説き起こす方法を取っています。経済史ゆえに特定個人の名前やエピソードはほとんど出てきません(これを面白いと思うかどうかは、たぶん人それぞれでしょう)。構造に着目してややマクロな歴史を描いていると言えるでしょう。
 近代中国経済というと「アジア的停滞」のレッテルを貼られてしばらくそのまま放置されていたような印象がありますが、実際はいろいろと研究が進んでいるようです。
 中国の権力構造がかなり支配者と民衆の間が開いたものであって、その中間に郷紳がおり、またいわゆる「秘密結社」も体制教学たる儒教を受け入れない集団のためのセーフティーネットを担う中間団体だっただとか、中国の分権化から軍閥の割拠に至る状況を引き起こした原因を経済的な観点から見たりだとか、細かいところだと銀のブラックホールと呼ばれた中国ですが、じゃあその銀は中国に吸い込まれた後どうなっていたのかだとか、前から気になっていた点の解消や、思いもしなかった視点からの記述など、個人的には面白く読めました。


■町田健『ソシュールと言語学 コトバはなぜ通じるのか』
■丸山圭三郎『ソシュールを読む』
 歴史学を含む人文科学が引っ掻き回されることになった言語論的転回の原因は、どうやらソシュールにあるらしい、ということでウィトゲンシュタインに進む前にソシュール関連を二冊読んでみました。
 町田先生の本はタイトル通り、関心を言語学に絞ってソシュールとそれ以降の一般言語学について書いてあります。語り口が平易なので素人には助かりますが、ここから人文科学全体への影響がどう出てくるのか、という点については見えにくいです(もっとも、それを目的として書いてあるわけではないので当たり前なのですが)。
 一方丸山先生の方は岩波市民セミナーの講義録をもとに書かれたものだそうで(井筒俊彦先生の『『コーラン』を読む』と同様ですね)、読みやすいかと思ってみればこれがなかなか難物で、先に町田先生の本を読んでいなければ間違いなく歯が立たなかったであろうと思われます。前にも書いた気がしますが一体、岩波市民セミナーというのはどういう層が聞きに行っているんでしょうか……。セミナーは「ソシュール:『一般言語学講義』を読む」、というタイトルで行われたらしく、原典に基づいて話が進んでいきます。
 先立っている実体を我々は認識しているわけではなく、差異の体系の中で位置づけることによってはじめて認識が可能である、という論旨は概ね理解できますが、細かい話になるとなんとも。今更ながら、大学で言語学関連の講義を取っておけばよかったなあなどと思うのでありました。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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