新・ローマ帝国衰亡史/南川高志


 新書サイズでローマ帝国の衰亡を扱った野心的な本。
 
 『ローマ帝国衰亡史』と言えばギボンの名著で、それを意識したタイトルであることは間違いないのだろう。帯に「「ゲルマン民族」は存在しなかった」などかなり刺激的な文句が並んでいるのと相まって、かなり際どい内容なのかと思っていたが、読んでみると新視点を持ち込んでいるとは言え割合常識的に思える本であった(ただ、管理人はローマ史に疎いということも急いで書き添えておく)。ゲルマン民族の件については、民族概念をそのまま古代に持ち込むことの問題性の指摘が、こういう形で帯に出てきたらしい。もっとも、この書き方はミスリードなのではないかと思うが。
 文章は読みやすく、また年代順に政治史を追っていく形で話が進むので、予備知識もさほど必要ない(逆に政治史の記述にページを取られ、著者の主張のための記述量がやや圧迫されている感もある)。

 衰亡史と言っても、著者は「衰亡」という語からイメージされるようにローマが滅亡への長い坂を転がり落ちたのではなく、わずか30年ほどで決定的に自壊したとし、その「衰亡」の原因を「ローマ人アイデンティティの変質」とする。政治の舞台や軍団内の外部部族出身者の増加と、彼らが自らのエスニシティを持ち始めたことから、四世紀に外部部族の排斥を唱える言説、彼らへの嫌悪感が広がっていたことを重視し、他者を同化する性質を持っていた「ローマ人」概念が、排他的なものに変わってしまったと見る。
 それまでの「ローマ人」概念は、ローマ市民権と結びついた融通無碍なもので、外部部族出身者も「ローマ人」としての栄達の道が開かれており、また周縁部に駐屯する軍隊は、ローマ式の軍制の中に外部部族を取り込み、「ローマ人」意識を持つ人材を生産することができたというのだ。周縁部においては、在地の人々のうち、支配層に限定されるとは言え、ローマ化は魅力的な選択肢であった。
 この意識・仕組みが失われた時、ローマ帝国は空中分解に近い形で自壊する。管理人に事の当否を厳密に判断するだけの能力は無いが、一つの見方としては十分に成り立つのではないかとの印象を受ける。

 他にも地中海帝国としてばかり見られがちなローマ帝国の陸域帝国としての面に光を当てるなど一風変わった記述方針も興味深く、また「背教者」ユリアヌスに1章を割いてある点など、単純に彼の経歴を知れて嬉しかった部分である。
 クセが強い部分もあるので他書との突き合わせが必要かもしれないが、一読の価値はあるのではないだろうか。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ