義賊伝説/南塚信吾


 ハンガリーの実在の人物ロージャ・シャーンドルを中心に、「義賊」の精神史を扱った本。
 
 本書冒頭でも鼠小僧とロビン・フッドが取り上げられているように、義賊伝説に類するものは世界中にある。だが、そのモデルとなった人物の実像と伝説中の「義賊」像とは乖離していることが少なくない。本書ではロージャ・シャーンドルという人物を取り上げ、その実像と伝説の関係を考察し、伝説形成の過程を追い、義賊とは何であったのかを考えるという方法を取っている。彼は裁判記録もあり、比較的実像に迫りやすく、なおかつコシュート・ラヨシュの対ハプスブルクの独立闘争に参加したことから民衆の間での人気が極めて高いという稀有な人物である。
 著者は、シャーンドル自身の義賊意識については懐疑的なようである(特に、弱き者に分け与えるという「義賊」にとって重要な性格はシャーンドル自身の行動ではなく、後からついた尾ひれらしい)。しかし、時代が降るにつれ民衆の希望が彼らに投影されていったこと、小説家たちがそれに乗り、輝かしい義賊伝説が形成されていったこと、その歴史的事実を重視している。民衆の思いを体現するものとして義賊伝説を積極的に評価しているようだ。
 本書では踏み込んでいないが、管理人は読後、学問的に追い求めるべき史実と、「歴史」に仮託された希望の齟齬(このあたり、『ラディカル・オーラル・ヒストリー』参照)について微妙なものを見たのであった。
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鉄勒京二

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