「シベリアに独立を!」/田中克彦
副題「諸民族の祖国をとりもどす」。
「シベリア」と聞いてまず我々が思い浮かべるのは何か。氷に覆われたタイガか、「シベリア抑留」の現場か、あるいは帝政ロシア、ソ連時代を通じて政治犯の流刑地となった「辺境」か、。いずれにせよあまり明るいイメージではない。しかし、当たり前であるが、シベリアの地にもそこを故郷とする人々がいる。本書は、シベリアを愛し、その「独立」を願った人々の営みを記したものだ。
中心に据えられているのはグリゴーリー・ニコラエヴィッチ・ポターニン、コサック軍人を父親に持つ、シベリア生まれの男性である。地理学者セミョーノフや革命家バクーニンと交わり、ロシア中央に富を収奪される「国内植民地」となっている自らの故郷シベリアの現状を憂いて解放運動を起こした。流刑を経た後、探検家・地理学者として偉大な足跡を残す(一般には、こちらの顔の方がよく知られているようである。なお管理人はロシアとの関わりという面でゼキ・ヴェリディ・トガンの経歴を思い出した)。
著者の田中克彦氏は言語学者・モンゴル学者で、言語と、民族や国家の関わりについての著作が多く、本書もその方面での記述が多い。
印象に残った点を挙げると、文豪ドストエフスキーとポターニンがセミョーノフを通じて知り合っていたこと、シベリアのパトリオットたちが成立間もないアメリカ合衆国に範を見ていたこと、ポターニンと監獄生活を共にした人々の様々な経歴などなど……。
最後は歴史から投げかけられる現代への問題提起で締めくくられているが、下手に要約するよりは読んでもらった方がいいだろう。