ウィルソン/長沼秀世


 世界史リブレット人の一冊。アメリカ大統領ウィルソンの評伝。
 
 ウィルソン。副題の通り「国際連盟の提唱者」であるが、彼がアメリカ史のなかで果たした役割について、アメリカ史に疎い管理人はまったく知らなかった(というか、正直なところマルコムX関連を除けばアメリカ史の単著は初めて読んだ)。本書は世界史リブレット人シリーズの既刊の中では割合オーソドックスなスタイルの評伝となっており、彼の経歴を時代背景と絡めながら時系列順に追う形となっている。

 ウィルソンと言えば革新派の理想主義的な人物、というイメージが一般的だと思うが、著者によれば当初は民主党内でも保守派の政治家だったという(それ以前は学者だった)。ニュージャージー州の州知事就任を期に、ユダヤ系の人物を州最高裁の判事に任命したり、食品検査法、工場労働条件監督法、女性及び児童労働制限法などの成立に尽力する(何がこの変化をもたらしたのか、著者は語っておらず、その点気になるのだが)。当時の革新的な気風の中で、大統領選の民主党代表を選ぶ際に彼に白羽の矢が立つこととなる。
 その後の大部分は第一次世界大戦と、ヴェルサイユ条約、国際連盟関連の記述となっているが、いわゆる「宣教師外交」と関連して、メキシコ革命への干渉を中心として、対中南米外交にある程度ページを割いてある部分が興味深かった。彼は相手国にも「国民の自由な意志によって選出された政府」がなければならないと考えていたらしい(今のアメリカの外交政策にも通じているのだろう)。ウィルソンが理想主義者でありながら、その理想がいささかありがた迷惑に思えてくる部分でもある。

 ともあれ、前史としての南北戦争から彼の死去まで、19世紀後半から20世紀初頭までのアメリカ史をひと通りさらっておく意味でも、ウィルソンという人物のことを知る意味でも、読んで良かったと思える本であった。

 なお余談だが、このシリーズのラインナップには、ウィルソンの他にアメリカ大統領として『ワシントン』、『リンカン』、『フランクリン・ローズヴェルト』が挙がっている(現時点でいずれも未刊)。有史以来を扱うシリーズものとしてアメリカ史の比重が高くなってきているのは最近の傾向なのだろうか。いずれにせよ、期待したいところである。
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鉄勒京二

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