物語ビルマの歴史/根本敬


 中公新書から出ている「物語○○の歴史」シリーズの最新刊。副題は「王朝時代から現代まで」だが、大部分は近現代である。
 
 ここ最近、民主化のおかげで企業の進出や観光もしやすくなっている東南アジアの国、ビルマ(ミャンマー)。しかし、あまりその歴史について気軽に読める本は無い(というか、東南アジアは全般的にそうではあるのだが)。「ビルマの竪琴」であったり「インパール作戦」であったり、現代ならアウンサンスーチー女史であったりと、断片的な情報はあっても、それをつなげて整理できている人はそうそういないのではないか。本書は、そのビルマの歴史について手堅くまとめた本である。

 中身はと言えば序章、1~10章、終章に分かれ、基本的に時系列順に政治史を追っていく形であり、スタンダードな通史であると言えよう。序章はビルマの基礎知識であり、第1章「王朝時代のビルマ」はかなり駆け足なので、第2章「英国植民地下のビルマ」からがメインとなる。
 英国植民地時代~日本占領期を通じて目につくキーワードが「抵抗と協力のはざま」である。本文中の言葉を借りると英国・日本に対する「協力姿勢を見せて相手の信頼を獲得し、その立場を活用して本来のナショナリストとしての要求をしぶとく実現させていく政治交渉(バーゲニング)」ということになる。もとは親英派であったビルマ人エリートが、日本占領に伴い親日派に転じたことを、日英の対立を自明視する英国人は訝しんだが、ことを実力支配者に対するバーゲニングという観点から見れば、それはむしろ自然なことなのだ。
 無論、このような態度に卑屈さを見出すナショナリストも少なからずおり、彼らは「タキン党」を組織し、戦後のビルマで中心的な役割を果たすようになる。
 独立の立役者アウンサン(「アウンサン将軍」と呼ばれることが多い。アウンサンスーチー女史の父親)が暗殺されて以降のビルマ史は、それ以前にも増してあまり関心を持てれていない印象だが、本書ではその部分にもしっかりと頁が割かれている。ウー・ヌ政権からネィウィンの軍政体制の成立、国際社会との駆け引きと近年の民主化の流れまで。

 文章は簡潔で、固有名詞に慣れさえすれば読み通すのにそう時間はかからないが、現代のことを考える上でもじっくり読みたい本ではある。
 なお著者はあとがきで一国通史の意味について、「グローバル・ヒストリー」や「新しい世界史」の新しい企てと比較しながら悩んだ上で、保守的な試みでありながらもなお必要であると開き直って本書を書いたと述懐している。事があまり注目されてこなかった国の歴史であれば、やはりこういう本はありがたく著者に感謝したくもなるし、得る物はあると思うのであった。
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鉄勒京二

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