近況と最近読んだ本など

 この間私にしては珍しくライフスタイル誌を買いました……と言うとアレですが、何のことはなくpenでシルクロード特集が組まれていたので手にとったのでした。penもどういう層をターゲットにしているのかよくわからないところがありますが、今回の特集は写真が素晴らしく、(まあ図版が一部「……」なのですが)楽しんだ次第です。

 さて、新刊情報。
 講談社選書メチエの3月の刊行予定に『ティムール帝国 中央ユーラシアの再統合をめざして』という表題が上がっています。著者は『ティムール帝国支配層の研究』の川口先生の模様。ティムール関連の概説は概して古く、数も少ないのでこれは非常な朗報です。表題がティムール個人ではなく「帝国」なので、どのあたりの時代まで扱うのか気になりますが、期待して待つこととしましょう。
 山川出版の世界史リブレット人シリーズは、今月末に第1巻『ハンムラビ王』と、第56巻『マリア・テレジアとヨーゼフ2世』が刊行されるようです。しかしハンムラビ王個人について一冊書けるほどのことが分かってるんでしょうか? それとも法典関連で頁を稼ぐのか、さてはて。いずれにせよ、どちらもあまり手を出していない時代の本なので勉強になりそうです。

 以下、最近読んだ本
 

■森茂暁『太平記の群像――南北朝を駆け抜けた人々』
 以前角川選書から出ていた本(1991年発売ですが、著者曰く大河ドラマの便乗ではないとのこと)。品切れになって長くなりますが、古書で買おうか買おうまいか迷っていたところで文庫化されたので即購入。著者はお馴染み森茂暁先生。
 太平記の群像というタイトル通り、後醍醐天皇、尊氏、義貞、三木一草、以下武将・公家衆・僧諸々……と、南北朝主要人物大全みたいなところがある本ですが、そこはそれ、森先生だけあって適当な作りにならず、信頼できる本となっています。逆にミーハー的な要素はやや薄め。
 なお、本書を読む前に『太平記』を読んでいる必要はまったくありません(何かしら南北朝時代の概説を読んでおいた方がいいのは間違いないですが)。
 同じく森先生の『建武政権』もそうでしたが、一度通読した上で辞書的に使うのが便利な本のような気がします。なお、後醍醐天皇の皇子たちについては森先生は『皇子たちの南北朝』という別の本を出していまして、これも確保してあるのでそのうち読みたいと思います。


■呉座勇一『戦争の日本中世史――「下克上」は本当にあったのか』
 『一揆の原理』で注目されるようになった呉座先生の新刊。何気なく本屋の新刊棚で見てみたら、中世と言いつつ、他書でよく見る源平合戦と戦国時代ははしょってある、と冒頭で宣言されていてツボだったので購入。中身の大部分が南北朝で、当たりを引いたようです(笑)。
 サブタイトルは「下克上」がメインの関心のように読めますが、のみならず戦後歴史学の唯物史観を検討しなおすというのが本書の狙いの模様。基本的に私の日本史の認識はちょっと古い概説に依っていることが多いので(佐藤進一先生や網野善彦先生など)本書の考え方は新鮮であり、また違和感のある部分も少なからずあり。それが先入観のせいならば、反省するべきところなのでしょうが、まあ、判断するべき材料がまだ少ないので保留します。
 通史として読めるかというと、時系列がやや前後している部分があったり、著者の主張にスペースが取られてたりで、別の本を読んでからの方がいいかもしれません。
 いずれにせよ、考えさせられる面白い本ではありました。


■奥野高広『足利義昭』
 人物叢書の一冊。大河で義昭も出てきたことなので、このタイミングで読んでみました。
 冒頭の前史部分は(それこそ上の『戦争の日本中世史』を読んだ後だと)戦後歴史学の匂いが濃密に漂ってきて鼻白む部分もないではないのですが、義昭登場以降は事実関係の記述が多いので今でも普通に読めますし、ところどころ挟まれる著者の感想がユーモアがあって面白いところ。
 義昭自身については、まあ巷で言われるほどのバカではないにしろ、あまり華もなく、さりとて黒幕というほどの実力もなく、と微妙な印象に。ただ、勝者の歴史を後から見ていると忘れがちなことですが最初から最後まで一本筋の通ってる人の方が稀であることを思えば、彼もまたひとりの人間であり、人間味ってのはこういうことを言うのかなあなどと月並な感想も思い浮かぶのでありました。
 信長上洛以降の周辺勢力との関わりについてのところが少々予備知識不足だと判明したので、その辺のところをもう少し勉強したいと思います。


■吉川英治『黒田如水』
 この機会に官兵衛主役の歴史小説でも読んでみるかということで、著作権が切れて無料で読めるKindle版をスマホに落としてみました(青空文庫でも公開されています)。
 姫路城を秀吉に譲るところで終わるので、作中時間の経過も短く、官兵衛大活躍というわけでもなく、どちらかと言えば半兵衛との友情とか、獄中生活とか、しんみりした描写の方が印象に残り、血沸き肉踊るといった体ではありません。山中鹿之介のあっさりした退場にはおいおいと思いつつ、その辺も含めてクドくないのが読みやすさにつながってるのかとも思ったり。


■西村義樹・野矢茂樹『言語学の教室――哲学者と学ぶ認知言語学』
 歴史学から言語論的転回へ、言語論的転回からウィトゲンシュタインへ、ウィトゲンシュタインからソシュールへ、ソシュールから言語学へ、とまあ寄り道も甚だしい経緯で言語学に片足を突っ込んだわけですが、本書は評判がよく対談形式で読みやすそうだったので、本屋で見かけた折に買ってみました。
 内容自体は面白く読みやすいものの、結局認知言語学とは何ぞやということが(私が生成文法や他の言語学の分野についてほとんど知らないのが大きいのですが)対談のおかげでおぼろげには掴めつつも、他人に説明しろと言われたら困る状態のまま読み終わってしまいました。いずれ機会があれば再読したいところです。


■高野秀行『イスラム飲酒紀行』
 こないだ『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞を受賞した辺境好きのノンフィクション作家高野秀行さんがイスラーム圏で酒を探しまわる紀行文。と書くと、ふーんという感想で終わってしまいそうなところですが、著者の酒好きがいっそ突き抜けているので、なんか怪しいところにも普通に突撃してみたり、問答が爆笑ものだったり、なかなか楽しい出来になっています。一方で、酒というツールを通じて(あちゃらではアングラのことが多いわけですから)現地のムスリムの「本音と建前」を現地の空気のまま伝えるということに関して興味深い部分も。基本的にあまり頭を使わずにニヤニヤしながら読める本ですが、ところどころ深く考えてみてもいいんじゃないでしょうか。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ