アレクサンドロス大王/森谷公俊


 副題は「「世界征服者」の虚像と実像」。
 
 アレクサンドロスに関する書籍はちょくちょく出版されている(そして本書の著者森谷氏のものが多い)が、著者がプロローグで書いている通り、本書の特徴は一つにアレクサンドロスとペルシアの主要な戦いを取り上げて軍事的な分析を行っている点、もう一つにアレクサンドロスの東方政策の評価を再検討している点である。なお、それぞれの事項の記述には、研究史の簡単な整理と、著者自身の考察の過程が含まれており、著者と一緒にその考えを検討しながら読むことができる。

 まず前者についてはグラニコス川の戦い、イッソスの戦い、ガウガメラの戦いについてそれぞれ史料を読み込み、アレクサンドロスの戦術について考察する。詳細な布陣図が掲載されているのもありがたい。
 この部分を通じて、「正史」とされてきたアリアノスにも偏向があること、「俗伝」とされてきたクルティウスやディオドロスにもアリアノスより正確な部分が少なからずあることなどが、具体的な事例とともに分かるようになっている。

 後者は、ダレイオスの評価の再検討と、アレクサンドロスが東西の融合を目指したとされる諸政策を検討している。
 ダレイオスはギリシア・マケドニア側の史料から「臆病で思慮に欠ける」という評価が長らく定着してきたが、オリエント史側の視点からの再評価なども行われ、かならずしもその評価が正しいとはいえない現状であるらしい。
 また、アレクサンドロスの東方政策については、東西の融合という大目標などではなく個々の出来事におけるそれぞれのもっと喫緊の問題の解決のための方策であろうという。確かに、著者の言うとおり例えばヘタイロイたちと東方出身者の集団結婚が東西融合の政策であるのならば、マケドニア人男性と東方人女性の組み合わせだけでなく、東方人男性とマケドニア人女性の組み合わせもあってしかるべきだろう。

 アレクサンドロスはその足跡が未曾有の征服事業に彩られているだけに評価の難しい人間だが、本書は史料を丹念に検討しその過程を開陳することによって、著者の主張に説得力を持たせることに成功している。ために初心者には少しとっつきにくい面もあるかもしれないが、難しさと同時に面白さも伝わってくる本であった。
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鉄勒京二

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