ローマ五賢帝/南川高志


 98年に講談社現代新書に収録されたものの文庫版。ネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウス・アントニヌス――いわゆるローマ帝国の「五賢帝」時代を光と影の両面から考察した本。
 
 「五賢帝」という言葉が『ローマ帝国衰亡史』のギボンにより作られたものだということは割合有名だと思うが、その実像について邦語で読める最近の本は意外に少ないようだ。本書では、前史から説き起こし、「五賢帝時代」が本当に「人類が最も幸福であった」かどうか検討している。

 「五賢帝時代」と言えば、「養子皇帝制」によって優秀な人物が後継者に据えられ、内乱も少なく、平和であった時代というイメージが一般的だったが、この本によるとどうもそうではないようだ。ハドリアヌスは同時代人にとっては「暴君」であり(後継者アントニヌス・ピウスによる擁護がなければその事績が抹消されていた可能性が高いらしい)、またそれぞれの皇帝の即位の事情も細かく見ていけば権力闘争の陰が見え隠れし、「養子皇帝制」なるものが一貫して存在したとは到底言い得ない。
 ただ、その影の部分は伝統と、時代の変化にともなうゆるやかな革新とを調和させ、帝国の最盛期を築いた時代であるがゆえに起こったことでもある。

 この本も新書版で出版されてから数えると16年になる。最近の本を読んでいると五賢帝に関しての記述は本書の影響が大きいのか、かつての通説よりも本書の描く五賢帝像に近いように思う。その最近の五賢帝に対する認識の大元をたどる意味でも、読んでみて損はない本であろう。
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鉄勒京二

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