マリア・テレジアとヨーゼフ2世/稲野強


 世界史リブレット人の一冊。近世ハプスブルクの最盛期を築いたマリア・テレジアとヨーゼフ2世親子の評伝。
 
 マリア・テレジアの名前は世界史にあまり興味がない人でも知っていることがある。マリー・アントワネットの母親で、ハプスブルクの「女帝」、そしてかのプロイセンの大王フリードリヒ2世のライバル、「外交革命」の実行者、などなど有名になりそうな要素に事欠かない。一方その息子ヨーゼフ2世も、母親に比べれば知名度は落ちるが、啓蒙専制君主の一人として重要な人物である。

 さて、内容だが五部に分けられるうち、①と②でマリア・テレジア本人についてとその統治時代、③で母子の共同統治時代、④でヨーゼフ2世の単独統治時代、⑤でヨーゼフ主義の改革が引き起こした混乱と、文化的な功績についてという順番で解説されている。
 時代が時代だけあって改革と外交に関連する事柄を軸に、マリア・テレジアとヨーゼフの個人的な情報も織り込みながら、ほぼ時代順の記述となっている。

 気になった点と言えば、まずはマリア・テレジアの夫フランツについての再評価。彼は義父カール6世から軍事的な活躍の機会を与えられてもパッとせず、家領の継承者がマリア・テレジアであることもあって名目上の皇帝のイメージが強い。近世ヨーロッパに疎い管理人としても、そういう印象を持っていた。しかし著者によれば、近年、彼の重商主義政策と、企業家としての成功によって再評価されつつあるらしい。オーストリア継承戦争での負債は全額彼の私財でまかなったそうだ。また、文化面での功績もあるという。
 次はやはり改革で、ヨーゼフ2世の方針はマリア・テレジアとそう大きく変わるものではなかったものの、母が状況に迫られてやむを得ずといった体であったのに対し(彼女は個人的にはヴォルテールを嫌っていたらしい)、息子は啓蒙主義を信奉し明確なビジョンを持って徹底的に行おうとしたのだという点か。ただ、その徹底ぶりが反感をもたらし、彼の死後の反動の時代に繋がってしまう。
 あとはちょくちょくフリードリヒ大王の動向やセリフが出てくるが、江村洋『ハプスブルク家』などがややフリードリヒに辛辣な書きぶりだったのに対し、本書はどちらかと言えばプロイセンが好きな人間でも安心して読める。

 文章は読みやすいし、有名な時代であることもあって、予備知識もさほどいらなかった。
 近代ハプスブルク君主国に関しては、近年ヨーロッパ統合の流れの中で、諸民族をなんとか苦労してまとめようとした歴史が見直されつつあるようだが、その前史として読んでも面白いかもしれない。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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