ローマとパルティア/ローズ・マリー・シェルドン


 ローマとパルティアの戦争を扱った通史。
 
 ローマとパルティア、3世紀に渡って幾度となく戈を交わした両大国であるが、その衝突は本当に不可避だったのだろうか? 著者ローズ・マリー・シェルドン女史は「古代世界の諜報活動と情報収集」についての著作が複数あり、その方面に明るい研究者だそうだが、本書では先行研究を踏まえた上で(どうやら、このテーマに関してあちらの軍事史界隈では侃々諤々の議論があるらしい)、ローマの対パルティア政策がいかなるものだったのか通時的に検討している。

 少なくとも、著者はローマの攻撃的な政策が生産的なものではなかったと見ているようだ。パルティアはローマに対して大規模な攻撃に出られるような強靭な国家ではなく(兵站が弱く、封建的な組織であるがゆえに指揮系統も貫徹しない)、わざわざ敵地に遠征すべき相手ではなかったという。パルティアはローマに引けをとらない文化的伝統を持ち、占領地を恒久的に支配することはローマとの文化的差異から不可能であった。
 だが、ローマはその威信にかけてパルティアを服属させようとしたし、幾度も失敗しながらも「戦争による勝利」は(アウグストゥスやティベリウスがそれを賢明にも避けたにも関わらず)、魅力的な選択肢だったらしい。

 メインの論旨以外で気になった点と言えば、(管理人の予備知識が少ないこともあるが)、アルメニアの存在がローマとパルティアの関係のキーになっている点だろうか。この国をどちらが服属させるかが一つの争点であった。

 著者はローマとアメリカを比較している。特に、情報収集の不備がこの二つの超大国に共通するのだという(そう言えば、杉山正明氏も『モンゴル帝国と長いその後』で「調べるモンゴル、調べないアメリカ」を対比させていた)。ぶっちゃけた話、比較検討とその結論の妥当性はさて置いても、メソポタミアで戦争を行ったということ以外の共通点を考えると、比較の必要性についてはあまり大きくないように思えるのだが……。情報収集の重要性、というならば別にアメリカに比較対象を限るべき話でもない(もっとも、本書の出版された時期のことを考える必要はあるだろう)。
 いずれにせよ、邦語で読めるパルティア史の本も数が少ないこともあり、通史として読む分には悪い本ではない。
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鉄勒京二

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