双頭の鷲/佐藤賢一


 佐藤賢一氏の百年戦争もの。タイトルの「双頭の鷲」は、デュ・ゲクランが皇帝カール4世から使用許可をもらった紋章から(デュ・ゲクランの君主シャルル5世はカール4世の甥にあたる)。
 
 前に『傭兵ピエール』のレビューを書いた時にこの本について「読むのが楽しみである」と述べたのだが、色々あって結局四年越しになってしまった。
 それはさておき、本作は百年戦争初期のフランス側の英雄ベルトラン・デュ・ゲクランの活躍を描いた歴史小説である。百年戦争ではなんだかんだでジャンヌ・ダルクが有名だが、デュ・ゲクランはフランス軍を率い、百年戦争初期のフランスを有利に導いた男であり、重要性はジャンヌ・ダルクに劣らない(というか、戦局に与えた影響という点だけで見るとデュ・ゲクランの方がよほど重要である)。が、佐藤氏の書くデュ・ゲクランは奔放で子供のような人間であって、一見したところ戦争の天才には見えない。ふざけてはしゃぎ回ったり、高位の人間にもぶしつけな口を利いたり、政治がまったく理解できていなかったり、欠点だらけの人間である。そんな彼がフランス軍を率い、主君シャルル5世を勝利へと導いていく。
 シャルル5世は史実でも英邁な君主であるが、本作では頭のキレがクローズアップされており、デュ・ゲクランと並ぶ二人目の主人公と言っていいだろう。彼の視点を持ち込むことによって、同じ百年戦争ものでも『傭兵ピエール』ではあまり描かれなかった「国家の大計」をもストーリーに持ち込むことに成功している。国王から市井の人間まで、縦に広い人々のそれぞれの生活を描写しているのも本作の特徴だろうか。
 フランス側主人公なので例えばイングランド側のエドワード黒太子の描き方がこりゃあんまりでないか、など言いたいこともないではないが、単純にこの本の面白さがそういう部分をあまり気にさせない。
 百年戦争に興味がなくとも、小説として非常に出来がいいので是非色々な人に読んでもらいたい本である。
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鉄勒京二

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