伊高浩昭『チェ・ゲバラ』


 副題「旅・キューバ革命・ボリビア」。チェ・ゲバラの評伝。
 
 ヴォー・グエン・ザップ、毛沢東、パルチザン初期のティトー……現代史に名を残すゲリラ戦の名手は多いが、当人が戦った国以外でも人気と知名度の極めて高い人物としてチェ・ゲバラに並ぶものはいない(強いて言えばゲバラには及ばないながらもマスードが国外でも人気があるだろうか)。
 管理人はその世代ではないのだが、本書の帯にもあしらわれているアルベルト・コルダ撮影のゲバラの顔写真をあしらったTシャツを見たことのある方も多かろう。本書は、ジャーナリストである伊高浩昭氏が史料および一部関係者へのインタビューに基き、そのゲバラの生涯を書いた評伝である。

 世人がゲバラについて知っているのは、キューバ革命の英雄としての顔だろうか、それともボリビアで苦難の日々の後に死を迎えた悲劇の革命家としての顔だろうか。本書の記述は時系列順で時折著者の感嘆をはさみつつ、アルゼンチンに生まれボリビアに死んだゲバラの人生を追ってゆく。映画化もされた『モーターサイクル・ダイアリーズ』時代の旅から、キューバ革命、そしてキューバ政権内での葛藤の日々と、コンゴ、ボリビアでの失敗。
 彼は持病の喘息と戦いながら、虐げられた農民の力を信じ(しかしこれが都市部との連携を阻みゲバラの失敗の原因となる)、戦場でさえ読書と詩を愛した(そう言えば、マスードも戦場でも本を手放すことはなかった)。

 本書で興味深かった点は、キューバ政権時代のゲバラの立ち位置だ。戦場の過酷を最前線という場で知りながらバイロンにも似たロマンを失うことがなかったゲバラは、フィデル・カストロに、もとよりキューバでの革命成功の後にはキューバを離れ、他のラテンアメリカ地域で革命に身を投じる旨ことわっていたという。アメリカとの断行やソ連への接近が行われるなかで、アルバニアや中国に近かったゲバラはソ連派から敵視されていたようだ。革命の戦闘での英雄然とした姿とは裏腹に、ゲバラは(そして政権初期のフィデルも)カリスマこそあれ決して優秀な政治家ではなかった。
 革命キューバという若い国の紆余曲折を見るに、現在ラウール・カストロのもとでそれなりに安定しているキューバの姿が、かなり危うかった歴史のもとにあったのだと気付く。

 2017年はゲバラ没後50年に当たる。日本でそれがどの程度注目されるかは分からないが、この本でその時に備えておくのも悪くはないだろう。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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