高畠純夫『古代ギリシアの思想家たち』


 世界史リブレット人の一冊。副題は「知の伝統と闘争」。
 
 本書でメインに扱われるのはアンティフォンとソクラテスの二人である。ソクラテスはともかく、アンティフォンと聞いても誰か分からなかったのは管理人だけではあるまい。彼はいわゆる「ソフィスト」と呼ばれていた人の一人であったらしい(著者はアンティフォンで単著を出している)。著者の目論見は、アンティフォンとソクラテスの背景にあるものを通じて、彼らの思想と、それを可能とした環境について述べることのようだ。

 前置きの後で、本書は叙事詩・抒情詩の伝統について述べ始める。なるほど確かに、知の伝統というものはいきなり無から湧き出たわけではあるまい。そしてようやく哲学者の伝統に入る。いわゆる「ソクラテス以前の哲学者」たちである。ここでは、ざっと哲学者たちを眺めた後、前6世紀アテナイのソロンに少し多めの記述が割かれる。民衆から浮き上がり、民衆に向き合うことの少なかった哲学者・思想家たちの中で、ソロンのみは正義と政治を結びつけ、実際に政治の場に立ったために、民衆と向き合わざるを得なかったというのだ。
 こうして民衆と向き合う思想家が生まれたところで、前5世紀のアテナイの状況を概観する。軍事を通じてアテナイの市民層が力をつけてきたというのは周知の定説であるが、その市民たちは、この市民社会のあり方によって一定の文化水準を持つようになってくる。さらには他者との競争で、抜きん出たいという欲求もあり、ここにおいてソフィストと呼ばれる知識人、職業教師たちの出番が来るというわけだ(ソクラテスも、当時はその中の一人にすぎず、彼らの一党が「哲学者」として特別視されるのは後にその中での知的闘争を経た後だったという)。
 ここまで来て、アンティフォンとソクラテスの本格的な紹介に入る。弁論家・政治家として活躍し、最後は失脚したアンティフォンと、むしろただ真理を求めることに重きを置いたソクラテスが対照的に描かれる。ソクラテス以後、プラトンとアリストテレスの流れがギリシアの思想を席巻したように思われがちだが、ソクラテスの流れのみならず、アンティフォンの属した流れ、すなわち弁論術などを事とする知のあり方も引き続き隆盛を誇った。

 本書は世界史シリーズの一冊であって、哲学シリーズの一冊ではない。よって、ソクラテスらの思想について知りたいのならもっと読むべき別の本があるだろう。だが、歴史の中で古代ギリシアの知がいかなる展開をたどったのか知りたければ、是非手に取るとよいのではないか。
 
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