暗殺者教国 イスラム異端派の歴史/岩村忍


 暗殺教団――シーア派の一派であるニザール派の教権国家――に関する概説書。
 暗殺教団、いささか非現実的な響きを持つ名の集団だが、10世紀末から13世紀にかけて隠然たる勢力を誇った実在の宗派、ニザール派の国家である。この国家の実像は、幾多の伝説の中に埋没してしまっていた。
 研究が進み、少しづつ明らかになってきたその実像であったが、それを日本で最初に体系立てて紹介したのが本書である。
 政治的な歴史から、思想の変遷、また遺跡の様子なども掲載されている。

 半世紀近く前の本ではあるが、読み辛いことはなく、その後暗殺教団に関する出版物があまり無いこともあって、今でも充分手軽に役に立つ(ただ、「マング」、「アリ・ブハ」、「ビバールズ・ボンドクダリ」などは現在では「モンケ」、「アリク・ブカ」、「バイバルス・ブンドゥクダーリ」が一般的な表記なので注意を要する。その他の問題点については巻末の鈴木氏の解説を参照)。
  当然と言えば当然なのだが、アラムートのイスマイリの解説が中心なので、サラディンと関係の深いシリアのイスマイリについてはそれほど触れられてはいない。その点が少し残念ではある。

 著者はもともとモンゴルの将軍、キトブハ・ノヤンの伝記を書きたかったのだが、キトブハのことを調べているうちに暗殺教団について調べざるをえず、いつの間にか暗殺教団についての文章の分量がキトブハに関するものを上回ってしまったということらしい。というわけで、モンゴル帝国史に興味のある人にも実はお勧めできる。


章立て

1 ゴールバンド渓谷のイスマイリ派
2 アッサシン(暗殺者)の由来
3 ニザリ教団とその開祖
4 暗殺者の王国
5 ニザリとセルジューク・トルコ族
6 チンギス・ハーンの中央アジア征伐
7 首都カラコルム
8 モンゴル将軍キトブハ
9 ニザリ教国の滅亡
10 天文学者と歴史家の邂逅
11 キトブハの死
12 イスマイリの復興
13 ニザリ思想の系譜と展開
14 ニザリ城塞の遺蹟
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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