清水和裕『イスラーム史のなかの奴隷』


 世界史リブレット第101巻。イスラーム社会の中の奴隷を扱う。
 
 著者は『軍事奴隷・官僚・民衆』の清水和裕氏である。奴隷制については既に佐藤次高氏の『マムルーク』という名著があるが、本書は、コンパクトに奴隷制についてまとめ、奴隷一般を見渡す視野を持つのが特徴である。

 内容は、まず奴隷の法的な地位などについて述べた後、アラブの拡大と異民族奴隷についての話に入る。社会の中の奴隷制の歴史展開と、奴隷の生んだ子に関わる血統の重視の可否についての問題が扱われている。アッバース朝の事実上の創建者マンスールの母親が奴隷だったことは有名な話だが、以上の展開を受けて、次が宮廷の奴隷たちの説明になる。ここでは、宦官やマムルークについても扱われている。
 最後は搾取される奴隷であるが、ここに奴隷の扱いについての具体例を示しつつ、一方で、家父長権の強い社会にあって、女性や子どもの扱いと奴隷の扱いを比較し、奴隷と自由人の連続性について述べている。
 著者いわく、奴隷は「子ども」「半人前」と見なされたが、それが逆説的にイスラーム社会において他者を同化する社会的プロセスと連動していたという。なぜならば、多くの奴隷が開放され、自由人となることがみこまれたからだ。

 実際のところ、扱われている事実に関しては同じ著者の『軍事奴隷・官僚・民衆』と「イスラーム世界における奴隷」(弘末雅士[編]『越境者の世界史』所収)、佐藤次高『マムルーク』を読んでいれば目新しいものはあまりない。ただ、自由人と奴隷の地位が(明確な線引は建前上存在するものの)グラデーション状になっていることを強調しており、ある程度詳しい人間にとっては自明であるものの、初学者にとってはかなり有意義な書き方になっている。最初の一冊としては、極めて適切であると言えよう。
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鉄勒京二

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