近況・新刊情報と最近読んだ本など

 東洋書店さんが事業を畳まれるということで、私はユーラシア・ブックレットの既刊をあさっている今日この頃ですがいかがお過ごしでしょうか。こう暑い日はエアコンのきいた部屋で本を読むに限ります……が、職場が変わりまして、今のところ読書・執筆等に割ける時間がどうなるか未知数な状況です。休止期間中に読んだ本も色々あるので出来る限りレビューは書きたい次第ではあるのですが。
 話は変わりますが先日、『ビスマルク』の飯田先生とご一緒しましてあれやこれやとお話を伺ってきました。素人にはわからない裏の事情も色々あって大変なようですが、それでもなお若手の先生方は歴史学を取り巻く状況に危機感をお持ちのようです。

 さて、新刊情報。
 山川出版社の世界史リブレット人シリーズの今月の新刊は澤田勲先生の『冒頓単于』と、田中比呂志先生の『袁世凱』の模様。冒頓の方は東方選書から出ていた同先生の『匈奴』からどれだけアップデートされているのかに注目です(早いもので『匈奴』も20年くらい前の本になってしまいました)。袁世凱はどんな本になるのかちょっとわかりませんが、前に岡本隆司先生の『袁世凱』を読んで面白かったので、比較しつつ読んでみたいところ。
 山川のことなので発売が来月頭くらいにずれこむ可能性があるのは織り込み済みで楽しみに待ちたいと思います。
 中公新書今月の新刊には『源頼政と木曽義仲』というタイトルが。著者は永井晋先生。永井先生と言えば『金沢貞顕』が思い浮かぶわけですが、今回もどちらかと言えば敗者側の人間についての著作の模様。
 9月の講談社選書メチエには『戦国大名論 暴力と法と権力』というタイトルが。黒田先生の『戦国大名』も読み終えたので、押さえておきたい本です。

 以下、最近読んだ本。


■落合淳思『殷――中国史最古の王朝』
 史記を始めとする後代の文献資料の記述を、同時代の甲骨文字資料で覆すという非常に面白い本。司馬遷が書き残した記述が、かなり嘘っぱちであったということがわかります(多分司馬遷が意図的に偏向して書いたというよりは時間が経ちすぎたせいでしょうが)。
 まずもって、甲骨文字って文字を現代のものと対応させさえすればこんなに簡単に読めるのかというのが驚き。著者は『甲骨文字の読み方』という本も出しておられるようですが、なるほど対応表さえあれば漢文の応用で読めてしまうなあと。
 こんなに古い時代なのに考古学ですらなく、文献史学が、それも一次史料に則って行うことができるということに、中国の凄まじさを見る思いがします(まあ一方オリエントではハンムラビ王時代前後の書簡が残っていたりするそうですが)。
 殷も強力な中央政権というわけではなく、一時期には色々な地方勢力とドンパチをやっていたようです。


■塚瀬進『溥儀――変転する政治に翻弄された生涯』
 何故か日本史リブレット人で出た溥儀の評伝。
 まあ満州国は日本の傀儡政権ではあったわけですが、著者の塚瀬先生はご専門が中国近現代史、近現代日中関係史、満洲史ということで、どっちかというと中国史寄りなのでは?などと思ったりします。
 清朝の皇帝として二度し、満州国の皇帝として一度、計三度皇帝となった溥儀ですが、サブタイトル通り、本人の意志はそれなりにありつつも、環境に左右される人生であったようです。時代の分水嶺を作るタイプの人ではなく、どちらかというと、個人の中に時代が体現されているタイプの人のように思います。


■柳原敏昭[編]『平泉の光芒』
 吉川弘文館の新シリーズ、東北の中世史の第一巻。ほぼ同じタイミングで東北の古代史シリーズも創刊されたようです(両方共隔月刊行なので、一月ごとに交互に出る模様)。
 吉川弘文館は割とコンスタントにこの手の地域通史を放り込んできますが、果たして売れるのだろうかと、いらぬ心配をしてみたり……。
 このシリーズは、一人の著者が一冊書くのではなく、章ごとに分担する方針のようです。ただ、バラバラの論集ではなく、ちゃんと全7章中4章は通史、3章は各論にあててあるので読みにくいことはありません(ただこれ、研究者の数の多い日本史だからできる力技のような気がする)。
 例によって中心となるのはおなじみ奥州藤原氏。前九年後三年の合戦の影響とか、奥六郡とか、長らく触れていなかったので、そうだったそうだったと思いながら読み終えました。また東北史に関しては昔から考古学的調査も盛んですが、この本にも色々と最新の知見が盛り込んであります。


■久保田順一『新田三兄弟と南朝――義顕・義興・義宗の戦い』
 まさかの義貞の息子三人がメインの本。戎光祥出版はいったいどこへ行こうとしているのか……。義顕・義興・義宗の戦い、といいつつ、義顕は義貞存命中に死ぬので、事実上大半が義興・義宗になります(義貞の舎弟である脇屋義助とその息子義治の話題もあり)。
 太平記ではともかく、実際の歴史では割と脇役なこの二人ですが、現存している史料からでも、義興がやや血気盛んなところがあり、義宗はどちらかというと和平に傾いていた可能性のあることが読み取れるそうです。二人の性格の違いまでわかるとは思っていませんでした。
 中世武士選書シリーズは、過去の名著の再録でない書きおろしの分でも中にはかなり読みづらい本もあったりするのですが、この本はなかなか読みやすく面白かったです。同シリーズの『新田岩松氏』と一緒に読むことをおすすめしたいと思います。


■亀田俊和『高師直』
 意外なことに、室町幕府設立のキーパーソンであるにも関わらず、師直の評伝はいままで無きに等しい状態だったようです。本書は傑作『南朝の真実』の亀田先生が師直について書いた本。「今、明かされる“悪玉”の実像!」とか帯に書いてありますが、私はそもそも義務教育で足利尊氏が悪役であった世代ではなく、師直についても南北朝に興味をもちはじめてから知ったので、特に師直に悪役のイメージはないのでした。
 中身はと言えば基本的に時系列順に師直の動向を追う感じで、時々兄弟の師泰も出てきます。佐藤進一先生以来の観応の擾乱の対立軸に関する定説に対する疑義があったり、師直の事績意外にも読むべきところは多いように思います。
 教養があり、軍事能力があり、政治能力があり、とまあ、すごいことはすごいのですが、でもそうでもないと尊氏の執事なんて務まらんよなあとも思ったり。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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