シャジャラ=ドゥル/小林霧野


 副題は「真珠の樹という名の女スルタン」。
 第二回歴史群像大賞の入選作品で、「サラディンを生んだ者」の小林霧野氏のデビュー作。
 シャジャラ=ドゥル。エジプトマムルーク朝の初代スルタンだ。イスラム圏でスルタナ(女性スルタン)が即位した例は、彼女を除けばインド奴隷王朝のラズィーヤとモルディブのハーディージャのほぼ二例だけ。夫、アル=サーリフ(サラディンの弟、アル=アーディルの孫)の死後、エジプトをまとめ上げ、ルイ九世の十字軍を撃退した女傑である。

 同じ作者の作品としてはやはり後に書かれた「サラディンを生んだ者」の方が面白いが、マイナー好きには垂涎もののテーマなので、やはり貴重な小説ではある。
 時代と登場人物が重なっている「復讐、そして栄光/赤羽堯」(「復讐~」の方が扱っている時代は長いが)に比べると、モンゴル帝国の脅威の描写が無く、危機をルイ九世の十字軍に絞ってあり、分かりやすく、読みやすい。ただ、「復讐~」を先に読むと物足りないかもしれない。もっとも、この物語に描かれるサーリフのカイファ時代~スルタン就任までは「復讐~」には描かれていないので、両方読めば理解が深まるのは確かである。

 人物については、いけ好かない、とまではいかないものの、後に第五代スルタンに就くバイバルスのノリが軽いのが気にはなる。やり手であることは充分描写されている割に、あまり苦労の描写が無いからだろうと思う。まあ、彼が主人公ではないのでそれはそれでいいのかもしれないが、個人的にはもう少し描写があれば、と思った。
 その分、バイバルスの僚友アクターイが格好良く、後の第八代スルタンカラーウーンが爽やかで、フリードリヒ2世とアル=カーミルの橋渡しを担ったファクルッディーン(文中ではファハル=ディーン)の扱いが悪くなかった(というのも、「復讐~」での扱いが悪かったから比較しているのだが)のが嬉しい。

 ちなみに、文中、シャジャラ=ドゥルが自分の運命を変える決断を三度することとなる、という内容の文章があるのだが、この物語の中で出てくるのは二度目までである。果たして三度目は……。
 恐らくアイバクとの結婚だと思うのだが、読者の方々はどう解釈しただろうか?

章立て

第一章 カイファ城砦・夕
第二章 モザイクの世界
第三章 カイロへ!
第四章 スルタンの座
第五章 第七次十字軍到来!
第六章 マンスーラ・決戦前夜
第七章 大逆転
第八章 トーランシャー
第九章 青年スルタンの悲劇
第十章 スルタンの座に就きます
第十一章 スルタナ
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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