阿部重夫『イラク建国』


 副題「「不可能な国家」の原点」。
 
 2014年、ガートルード・ベルを描いた映画『Queen Of The Desert』がヘルツォーク監督によって撮影された。ベル。イギリスの考古学者にして探検家、情報員であり、イラク王国建国の立役者であった女性だ。日本において、この時期のアラブについてはアラビアのロレンスと絡んで、ヒジャーズ地方のアラブ反乱が比較的よく知られている。だが、それと有機的に連動する形で、イラク・ジャズィーラで起こった出来事については知名度があまり高いとはいえない。

 本書は2004年、イラク戦争直後にジャーナリストである著者によって書かれた、ベルを主人公としたイラク建国の物語である。
 本書ではドイツとイギリスの工作合戦にはじまり、一次大戦での戦闘、イラク王国の建国にいたるまで、アラビア半島やイランの情勢等をはさみながら、ベル、ロレンス、ファイサル、イブン・サウード、ドイツの軍人たち……あの時代の「中東」を生きた人々の群像劇が展開される。
 あの時代の中東のファクターはオスマン帝国、サウード家、ハーシム家だけではない。本書はラシード家やサバーハ家、そしてクルドにも目配りをしつつ(ラシード家に関してはベルが現地を訪れたこともあるという)、イラク建国時のカオスを書ききる。
 ダーイシュの台頭もあり、2015年現在未だ戦火の止まぬイラク。思い返せばオスマン帝国の解体以降、イラクにあったのは戦火か、そうでなければ強権的な支配であった。オスマン帝国解体時、列強の引いた国境線は決して何も解決しなかった。

 歴史から教訓を読み取る/読み取らせるのは史学の仕事ではない(少なくとも、史学に携わる者の多くはそれに禁欲的である)。その意味で、本書がアメリカの中東政策と100年前のイラク情勢を重ねあわせ教訓を読み取るべきだったと主張するのは、まさにジャーナリストだからこそ出来た仕事であろう。
 記述の時期・地域がややブレやすいことと、ロマン的な記述に走りがちなことを除けば、イラク建国時の情勢を知るのにうってつけの本である。
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鉄勒京二

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