近況・新刊情報と最近読んだ本など

 最近、大河太平記のDVD(全49回)を見ています。来年の大河が真田信繁、再来年が井伊直虎(柴咲コウ主演!)だそうですが、南北朝・室町時代の大河はこの太平記と花の乱以外撮られておらず、毎年次の大河の予想がささやかれるときでも(歴史好きの間で願望として提示されこそすれ)話題にすらならないので、貴重な作品だと思ってじっくり見ています。
 第一集(第二十七回まで)を見終わったので、第二集に入ったところです。原作は吉川太平記ですが、吉川太平記と違って義貞さんが格好いいのがとても嬉しいです。
 大河とは言いませんが、木曜時代劇くらいの枠で、北方太平記でも撮れないもんでしょうか……。

 さて、新刊情報。
 岩波9月の予定にニザーム・アルムルク『統治の書』が上がっています。セルジューク朝の名宰相が、君主鑑として書いたペルシア文学上の名著にして重要な史資料でもあります。
 ちくま学芸文庫からは『貞観政要』と延期になっていた岸本先生の『中国の歴史』が。
 世界史リブレット人の10月の新刊は『李成桂』と『陳独秀』のようです。先日の『冒頓単于』と『袁世凱』も山川のことなので発売日がずれこむかもしれないと書いたらその通りになったので今回も少々遅れるくらいのことは織り込んでおくことにします。

 以下、最近読んだ本。
 


■長田俊樹・杉山三郎・陣内秀信『文明の基層――古代文明から持続的な都市社会を考える』
 副題で古代文明と言いつつ、陣内先生はヴェネツィアについて書いておられるわけですが……。
 実は長田先生の『インダス文明の謎』を買ったものの積んでいまして、この本で何かダイジェスト的な見通しが得られるかなと思って買ったのですが、その点当たりでした。インダス文明が大河に依拠した文明かどうか怪しいとか、都市間のネットワークで成り立っていただとか、従来のイメージを塗り替える記述が多くて、ああこれは『インダス文明の謎』も読まないとなあと改めて思いました(いつ読むかは相変わらず未定ですが)。
 杉山先生だけはお名前を存じ上げなかったのですが中米も中々面白いなあと再確認。インカに関しては数冊読みましたが、テオティカワンについて読むのはこれが初めてでした。
 陣内先生はいつものヴェネツィア。若干観光案内的に読めたりしますが、都市ヴェネツィアの成り立ちについて、専門家の文章が短い頁で読めるのはなかなか貴重ではないかと。


■藤尾慎一郎『弥生時代の歴史』
 すっかりメチエにエネルギーを吸い取られたと思っていた講談社現代新書の歴史関連本ですが、最近またちょくちょく面白い本が出てきているので頑張って欲しいところです。
 この本は弥生時代の概説書で、最新の炭素14年代測定法に基づいた年代観に依拠しているというもの。何か微妙に理系知識が怪しいあたりが著者が文系だなあと思って和む点(?)。それはさておき、著者の専門である弥生時代の歴史についてはしっかりしておりなかなか面白い本です。弥生時代の日本列島には4つの文化があり云々(弥生文化、続縄文文化、貝塚文化、縄文文化)という時点で先史時代に疎い私はなるほどそうなのか、と言っていたわけですが名前だけは知っている有名な遺跡などがどう位置付けられているのかなんてことも分かって勉強になりました。
 考古学は、材料の偏りがあるので具体例からどの程度まで一般化するかってのが文献史学以上に難しいのだなあということも再確認。難しいからこそ面白いのかもしれませんが。


■永井晋『源頼政と木曽義仲――勝者になれなかった源氏』
 永井先生の本を読むのは人物叢書の『金沢貞顕』、日本史リブレット人の『北条高時と金沢貞顕』につづいて三冊目ですが、今回は源平合戦が舞台。頼政と義仲という「敗者」が主人公。一冊くらい源平合戦に関する概説を読んでからの方が理解が深まって良いと思われます。
 頼政の部分はまあ、例によって宮中のゴタゴタと相まってひっじょーに分かりにくい(この本が悪いのではなくて、そもそも事態が単純ではない)のですが、その中でも頼政が辟邪の家系だと思われていたとか、どうも挙兵は成り行きだったんじゃないか(でないと頼政に挙兵する理由がない)とか、色々興味深い話があります。
 一方、義仲は頼政ほど概説での露出が少ない人物ではないのですが、こちらにしても、甲斐源氏の働きとか、近江源氏(特に山本一族はなぜか上野・信濃の重代の味方以外から悉く見放されていくなかで最後まで義仲に従っている)の信頼感とか、見るべきところは多いように思います。


■高野秀行・清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』
 今回紹介する本の中で一番キワモノなのがこの一冊だと思いますが、どういう本かというと辺境作家の高野さんと日本中世史の清水先生がソマリランドと室町日本の共通点をきっかけに縦横無尽に話を広げていく対談というシロモノ。高野さんの本は『イスラム飲酒紀行』、清水先生の本は『足利尊氏と関東』を読んだことがあって、最初に見た時はどんな組み合わせだよ、と思ったものですが、これがなかなかおもしろい。
 ふたりとも博識なので、連想ゲーム式にどんどん話が広がっていって、「おわりに」の清水先生の言葉を借りると「「ジャン=リュック・ゴダール」と「白村江の戦い」と「スーフィー」と「キムジナー」と「角幡唯輔」が、一冊の本で語れる」という「空前絶後」の本になっている、という。
 呼んでいる最中、一つ心配だったのが、ソマリランドと室町日本の対比によってソマリランドが「遅れた」社会であると見なされないかということだったわけです。あるいはお二人にそういう意図がなくとも、読者の側でそう読みかねないのではないか、と思っていたのですが、最後の方でその辺のフォローもされているのでぬかりないところ。
 おふたりとも上部の政治はさておき(無視するわけではないですが)民衆というかとにかく政治のメインストリームでないところをフィールドワークと文献(史学では最近フィールドワークもやっているという話題も出てきますが)という手法の違いはあれ志向したいという意図のある方なので、非常に面白い対談になっているのではないかと思います。
 アフガンの現状が日本の戦国時代のようなものである、なんてことは杉山先生が『ユーラシアの東西』や『モンゴル帝国と長いその後』で書かれていましたが、それが記憶にあった身としてはなかなか腑に落ちるところもありました。
 扱っている内容の割に非常に読みやすい本なのでその点でもおすすめです。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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