近況・新刊情報と最近読んだ本など

 特に何かを撮る予定があるわけではないのですが、カメラを買いました。オリンパスがミラーレスデジタル一眼なるものを出していると知って興味が湧いて電気屋に行ったところ、期間限定セールだったので使ってなかったボーナスで買ってしまったという次第です。それでもネットの方が安かったのですが、実物見れた上に買ってすぐ触りたかったということもあり。
 目下、撮影可の特別展等あれば持って行きたいなあと思っています。あるいは、せっかくなのでどこぞに旅行でも行くか。

 さて、新刊情報。
 まず名古屋大学出版会から『〈驚異〉 の文化史――中東とヨーロッパを中心に』という本が出るそうです。編者は『アレクサンドロス変相』の山中由里子先生。中東関連では杉田英明先生や家島彦一先生など、なかなか豪華な執筆メンバーになっているようです。出版会の公式ページでは出版年月日が2015年とだけ書いてあっていつ出るのかよくわかりませんが、とは言え今年もあと3ヶ月とちょっとなのでそう待たずに済むことでしょう、多分。
 前回書くのを忘れていたのですが、勉誠出版からモンゴル考古学の白石典之先生が編者を務める『チンギス・カンとその時代』という本が出ます。Amazonでは今月25日発売予定になっています。目次を見る限りでは文献史学からではあまりわからないチンギス時代のモンゴルについて、詳しい記述がありそうなので楽しみです。
 講談社現代新書からは、11月に『天下統一』という本が。織豊時代は中世史の先生と近世史の先生で認識に食い違いの出る分野ですが、著者の黒嶋先生は中世史の方。『海の武士団』の著者ですね、積んでいるので読まなければ。このあいだ金子先生の『織田信長〈天下人〉の実像』という本を出したことといい、講談社はなかなかアグレッシブですね。
 日本史で言うと、平凡社新書11月に丸島先生の『真田四代と信繁』という書名が挙がっています。来年の大河の時代考証も担当されるそうで。

 以下、最近読んだ本
 

■八木久美子『慈悲深き神の食卓――イスラムを「食」からみる』
 「豊かな人たちが招かれ、貧しい人たちが招かれていない宴は、よくない宴である」とはイスラームにおけるハディースの一つです。なんだかんだ馴染みがないとは言え、イスラームについて断食と豚・酒を忌避することは一般によく知られていると思いますが、それだけでイスラームと食の関係を説明しきることはできません。本書は、(イスラーム法学上の議論ではなく)実社会の中での食とイスラームの関係を描写することによって、イスラームを食からみようとする試みです。
 主要な内容は、食餌規定、ラマダーンの断食および日没後の食事(イフタール)など。家族が集まるイベントとしてのラマダーンは、お盆や正月といった日本の行事と重ねあわせるとよく分かるように思います。ハラールビジネスに関する記述もあり、この辺も単純にビジネスチャンスだと思う前に立ち止まって考えたいところであります。


■大塚和夫『イスラーム的』
 NHKブックスで出ていたものが文庫化されました。著者の大塚先生は社会人類学がご専門。社会の中のイスラーム、あるいはイスラームに基づく社会というものを、極めて現在的な視点から考察しています。
 大塚先生は、戦闘的なイスラーム主義/そうでない穏健なイスラーム復興運動の両方が、決して時代的な後退ではなく、近代性を強く持つと主張し、単線的な社会発展・近代化の見方を否定します。このあたりはもはや常識化している感もあるとは思いますが、現代世界におけるイスラーム絡みの問題を知るにあたって、必要な予備知識ではあるはずです。この辺の話は一緒に同著者の『イスラーム主義とは何か』、横田先生の『原理主義の源流』などを読むと理解が深まって良いと思われます(難しいようでしたらまず小杉泰『イスラームとは何か』を先に)。
 後は細かい論点ですが、オリエンタリズムの対象となる「ファンダメンタリスト」が、同構造の(ただし力関係は逆転する)「オクシデンタリズム」的なレッテル貼りを行っているという指摘があります。他者のステロタイプ化と、一絡げに「敵」と見なす姿勢は、なるほど「異教徒」「神の敵」という言葉に端的に現れているわけです。
 もう一つ、もはや各分野からボコボコに批判されて久しいハンチントンの「文明の衝突」論が、大塚先生流のやり方で分析されています。ここは文化相対主義の功罪も合わせてしっかり読み込みたいところ。


■岩崎葉子『「個人主義」大国イラン――群れない社会の社交的なひとびと』
 現代イランというとなかなか厳格なイスラームの国だというイメージがあるかもしれませんが、実際のところパフレヴィー朝時代を経験したこともあって、暮らしぶりじたいは先進諸国に近いものがあるようです。核問題での経済制裁も近々解除されるような見通しですし、今後のイランは注目すべき対象でしょう。
 本書は、そんなイラン社会のあり方について書いた本。とは言え、著者は経済学の方で、イスラームについての専門家ではなく、その方面の記述は少ない印象です。実際のところ、社会を書くのに一から十までイスラームを持ち出さない書き方というものがあってもいいと思わせてくれる本でした(ただ、店舗の貸借についてはイスラーム法絡みのなかなかおもしろい話もあります)。
 フィールドワークの対象はアパレル産業の生産と流通の現場。どこまでいっても組織というものが希薄で、個々人の才覚と個々人間のコネで社会が回っている「個人主義」の実態が見えてきます。
 歴史に興味がある人間としては、現代イランの社会のあり方が見えてくると、それが何に由来しどう形成されてきたのかが気になるわけですが、その辺は著者の仕事ではないと思うので、機会があれば知りたいところです。


■松原正毅『遊牧の世界――トルコ系遊牧民ユルックの民族誌から』
 著者は社会人類学の方で遊牧社会論がご専門の模様。遊牧民というとモンゴル高原から中央アジアくらいまでの草原地帯か、北アフリカやアラビア半島の乾燥土漠・砂漠地帯が思い浮かびますが、本書の舞台はトルコ・アナトリア。ある遊牧民の移動にずっと同行して調査を行った記録です。歴史学方面から遊牧民に関心を持っていると、生活の細かいところや遊牧社会の一般人のあり方などなかなか眼が届きにくい(モンゴルはそれでも多少目にするものの、それより西になるとほぼ見ない)ので、家畜の個体認識、病気への対処、乳製品の作り方、移動時のあれこれなど色々勉強になりました。
 モンゴルとは違ってこのあたりの遊牧民の家畜は羊ではなくヤギがメインだとか。山岳地帯では健脚のヤギの方が向いているそうです。
 また、政府の政策もあって定住化が進んでいる旨が本書で述べられています。実地調査が79年から80年にかけてということなので、もう35年も前の話になりますけれども、現在のトルコで遊牧民はどうしているのでしょうか。


■MASAKI『独裁国家に行ってきた』
 世界204ヶ国(国連加盟国より多い!)を旅した著者が、独裁国家に行ってきた時の体験談をまとめたもの。当ブログで注目すべき国家はシリア、リビア、サウジアラビア、トルクメニスタンあたりでしょうか。他に北朝鮮、リベリア、両コンゴなどなど……。
 独裁国家と言ってもピンキリで、著者の記憶に残るあれこれも独裁国家ならではのものもあればそうでないものもあり。苦労話や強盗・賄賂要求など大変な目にあったという話、あるいは逆に独裁国家であるのに人心が穏やかな国だったという話などが多く、観光情報はありません(それを期待して読む人はさして居ないと思いますが)。
 あまり情報の入ってこない国の現地の一般社会のありようがわかるので、なかなか面白い本です。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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