砂野幸稔『ンクルマ』


 世界史リブレット人の一冊。ガーナ独立の指導者であり、全アフリカの独立と統合を夢見たンクルマを扱う。
 
 サハラ以南のアフリカについて、日本人が知っていることは少ない。世界史に興味のある人でも、なかなか手が回りにくい地域である。だが、そんな中でも1960年にアフリカの多くの国々が独立し「アフリカの年」と呼ばれたことは知っているかもしれない。あるいは、1957年にアフリカ独立の先駆けとしてガーナを独立に導いたンクルマ(エンクルマ、と表記されることも多い)の名前も知っているかもしれない。本書は、そのンクルマの評伝である。
 冒頭から、ンクルマの功績の大きさと、同時に政権末期の悪評について述べらている。サブタイトルには「アフリカ統一の夢」とあり、ンクルマ自身は、ガーナの独立のみならず全アフリカの独立を目指すことを独立記念演説で述べている。だが、これは結局のところ失敗に終わった。その「失敗」とは何だったのか、ンクルマを通じてアフリカの脱植民地化の時代を問おうとするのが著者の問題意識である。

 ンクルマに影響を与えたのは、アメリカの黒人運動だったそうだ。植民地統治の枠内でのアフリカ人の地位向上を目指す運動が主であった西アフリカよりも、ンクルマの留学先のアメリカでは、黒人による国家の建設を主張するマーカス・ガーヴィらの先鋭的な運動が盛んであり、ンクルマは彼に大きく影響を受けたという。
 貧乏学生として苦労しながらも、ンクルマはアメリカの黒人運動の思想(中にはコミュニズム関連のものもある)を吸収し、アフリカへと舞い戻る。
 ガーナでの独立運動には、主導権争いや、ンクルマのコミュニズム的傾向を警戒するイギリスの影響もあり順風満帆とはいかなかった。それでもンクルマは独自に政党を立ち上げ、独立を準備してゆく。だが、この段階から既にンクルマの強権的傾向や民族問題など失敗の伏線が出現しはじめる。
 57年、やっと独立を果たしたンクルマは、休む間もなく「独立の輸出」に奔走し始めた。だが、この性急な動きには、ガーナ国内も、他のアフリカ地域も、必ずしもついてゆくことができなかった。

 経済政策の失敗、身内である党の腐敗に対抗しようとしたンクルマ主義者の先鋭化と、彼らをコミュニストとして危険視する保守派の対立など、国内の亀裂は徐々に大きくなってゆき、二度の暗殺未遂、そして最終的にはクーデターによって政権を奪われ、国外で生涯を終えた。

 独立指導者が外国で教育を受け、帰国してから運動を組織した場合、外国でのものを含む上質な教育を受けられるエリート層と受けていない層との断絶が大きくなる場合が多い。ンクルマは教育を軽視したわけではなかったようだが、それでも民衆がなぜ自分を支持しているかは見誤った。自前で生え抜きの知識人が用意できなかったガーナには、ンクルマのストッパーとなれる人間が少なかったのかもしれない。
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鉄勒京二

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