ウディ・レヴィ『ナバテア文明』


 古代のおよそ一千年の間、ユダヤの王国の東隣に栄えたナバテア文明についての一冊。

 イスラーム以前のアラブ系の人々の歴史にあって、ナバテア王国という高度な文明を誇った国があった。遺跡などからその文化度の高さははっきりしており、重要度は高いのだが、あまりにも文字資料が少ないために詳しいことは分かっていないらしい(本書を読むと、よく分かっていないという事実がよく分かる)。
 著者ウディ・レヴィは専門の歴史家ではないが、本業の傍らナバテア研究の泰斗アブラハム・ネゲブの指導を受けたという異色の経歴の持ち主だという。

 ナバテア王国は古代オリエントの砂漠の中にいつの間にか像を結び、ローマの侵攻にあたっては抵抗せず属州となったがその文明の独自性は継続し、ナバテア文明が滅んだのはイスラーム勃興後しばらくしてからだったという。最初にキリスト教を国教としたのはローマ帝国ではなくアルメニア王国だったという事実はよく知られているが、ナバテア王国もローマ以外の国でキリスト教を受け入れたかなり早い例に挙げられるようだ。またそれと関連して、パウロが向かった時のダマスカスは、ナバテアの支配下にあったことなども紹介されている。
 本書はこのようなナバテア通史の他に、キリスト教以前の宗教、文化、言語、また隣人であるユダヤとの関係、比較(ナバテアはユダヤに比べて、随分と非戦闘的であるという)、さらに有名な遺跡であるペトラとシブタの詳しい紹介なども盛り込まれている。

 ペトラ遺跡はじめカラー写真が多いのが嬉しい(頁数の割に値段が高いのはこのためだろう)。内容的にもう少し知りたいところもあるが、それは史料の成約もあって仕方のないところなのだろう(むしろ、研究者たちこそが知りたい部分なのかもしれない)。
 日本語で読めるナバテア史の本は、ヒッティ『アラブの歴史』や小川・山本『オリエント世界の発展』などに部分的に記述があることを除けばこれのみである。本書は、ナバテアに興味ある人は熟読すべき一冊であると言えるだろう。
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鉄勒京二

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