小林登志子『シュメル――人類最古の文明』


 古代オリエント史において重要な位置を占めるシュメル人と彼らの文明についての一冊。
 
 シュメル人というと、古代オリエントに触れると真っ先に出てくるもののあまり分かっていることが少ない人々というイメージが強い。ところが、考古学的な資料を分析すると案外いろいろなことが分かるようだ。本書は通史的な構成ではなく、それぞれの章でモノに焦点を当てて、そこから縦横に話を広げるという流れになっている。

 扱われているのは順に、当時の環境、ウルクの大杯(浮き彫りから農業などを読み取れる)、楔形文字、円筒印章(ハンコ)、戦争(ウルのスタンダードから読み取る)、法典、少し寄り道してアッカドのサルゴン王、読み書きと学校、ジッグラト、シュメル文明のその後……など。
 細かいところで面白かったのは大麦の収穫倍率、(後世のラテン語のように)口語としては死語になった後も教養語として学ばれ続けるシュメル語、ギリシアのファランクスのような密集戦陣(ただしギリシアとは違い武器は自弁ではなく支給された)あたりか。
 シュメル人自身の文明観として、アッカド人には身内意識があったが、それより遠い人々は蛮族視していたというような話もあり、これを中華思想に例えている。アッカドのサルゴン王による征服前後の各都市の情勢もそれとなく各所に記述されており興味深い。
 また、楔形文字はシュメル時代は表語文字・表音文字両方であり、これに関しては漢字について知識のある日本人研究者が得意分野であったという。

 冒頭で現代イラクでのシュメルの象徴性について少し触れられている。本書はイラク戦争がタイムリーだった時期に執筆されたようだが、2015年現在、未だイラクに平和は訪れていない。どちらが良いという話ではないが、シュメルをイラクの歴史に位置付け、自らの誇りとするのは世俗的なナショナリズムの文脈の上での話であろうが、イスラーム主義が幅を利かせるとそれに対立するようになる。穏健に、シュメル研究が行える環境が戻ることを祈らずにはいられない。
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鉄勒京二

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