井筒俊彦『イスラーム哲学の原像』


 イスラーム哲学の原像というタイトルであるが、扱われているのは主に神秘主義哲学、特にイブン・アラビー。碩学井筒俊彦氏の手によるイスラーム哲学の解説。
 
 「原像」と言いつつ、例えばイスラーム哲学がギリシア哲学の影響を受けて成立した過程などについて詳述されているわけではない。現代まで続くイスラーム哲学(例えば、タバターウィーなどは和訳も出ている)の、メインストリームの一つである神秘主義哲学・存在一性論について、その成立の原点がどこにあるかという観点からの「原像」であるらしい。

 まず感嘆に神秘主義とイスラーム哲学の歴史について触れた後、神秘主義について、その認識の構造から解き明かし、また神秘主義と哲学の接近について語り、神秘主義の認識構造の中に哲学がどう接続されるのか説明する、という流れをとる。そこから、やっとイブン・アラビーの存在一性論に入る。
 スーフィズムによる主客の消失とそれに基づく存在論は、結論だけ聞けばなかなかアクロバティックなように思うのだが、決して突飛ではないということがよく分かるよう、順序立てて説明されている。
 回儒にもイブン・アラビー学派の影響は強いが、以前回儒関係の本を読んでわからなかったところが、少しは理解できたように思う。

 ところで、井筒氏は序文で言い切ってしまっているが、「主体的、実存的な関わりのない、他人の思想の客観的な研究には始めから全然興味がない」、「ただ私のこうした主体的関心のゆえに、イスラーム哲学の精神そのものを歪曲して提示するようなことだけはなかったであろうことを願っている」とのことで、要するにどこをズームアップするかについて著者本人の関心が色濃く出ており、そこは注意する必要があるだろう。
 井筒氏は「東洋哲学」という枠組みで、アジアの哲学に通底するものを把握し、表現しようとし続けてきた。本書でも、その目的・関心に通じた表現や説明方法が頻出する。これはあくまで、井筒俊彦流の理解であることを忘れないようにしたい。
 それさえ気をつけておけば、本書は講演を元にしていることもあり、非常に読みやすく、またイブン・アラビーについて得るところも大きいと言えるだろう。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ