白石典之[編]『チンギス・カンとその時代』


 学際的な研究によって、チンギス・カンとその時代について記した一冊。
 
 モンゴル帝国時代の研究は、基本的に文献史学に基いていた。過去形なのは、本書の編者、白石典之氏によってモンゴル帝国時代の考古学研究が端緒に付き、氏の著作『チンギス・カン――“蒼き狼”の実像』で示されたように、考古学によって文献史学では分からなかった様々な実像が明らかにされてきたからだ。
 本書はその白石氏が編者となり、タイトル通りチンギス・カンとその時代について、学際的な協力のもと様々な分野の学者が各章を分担して執筆している。考古学者、史学者を中心に森林生態学や気候学、地理学の専門家も加わっている。

 なぜ気候学の専門家がいるのかと気になる方もいるかもしれない。モンゴル帝国史の研究では、特にその勃興期において、気候変動の影響があったのではないかとかなり早い段階から指摘されていた。ただ、サンプル採取のばらつきもあり、どのような気候がどう影響したのか見解は一致しておらず、未だ定説はないようだ。本書の第六章、第七章では理系メンバーによるさしあたりの分析が示されている。

 この他にもチンギス・カンの活躍した時代の食と住、通貨、文字、鉄生産についてなど、面白い話題が多い。
 文献史学方面からも、チンギス時代のモンゴル高原において、西遼が果たした役割についての指摘は興味深い。
 第十五章では、少し毛色が変わって、近代のモンゴルにおいて、チンギス・カン崇拝がどのような様相を見せていたか、主に満州国での政策と関連して論じられている。チンギス・カンの墓についての章およびチンギスのイメージについてモンゴル国と内蒙古自治区の人にアンケートを行った結果を提示しているコラムもあるが、この三つの稿はチンギスという人物が近現代において、どのような扱われ方をしてきた、あるいは、しているのか、示してくれている。

 モンゴル帝国関連の概説書は、当然ながら文献史学に基づいた物が多く、本書が扱う種々の分野については、どうしても取り入れるのが一足遅くなる。各分野の最新の研究を知るという意味において、得るものは非常に多い本であると言えるだろう。
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鉄勒京二

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