鎌田繁『イスラームの深層』


 現在に至るまでのイスラーム神秘主義について平易に解説した一冊。

丁寧なことに、本題であるイスラーム神秘主義に入る前に、本書の前半部は一般的なイスラーム概説に当てられている。内容自体は至極穏当なものだが、後半部への伏線もいくつかあるので読み飛ばさないようにしたい。一神教と多神教の理念型とその実際のあり方の乖離に関しても、この二つの類型は思ったより近いものだと気付かされる。
 後半部はそれぞれの重要人物にスポットを当て、その思想を概観していく。西洋哲学史の文脈では中世「イスラーム世界」に流入した哲学は、やがてアンダルシアのイブン・ルシュド(アヴェロエス)を最後に西洋に回帰していく(高校世界史の認識もその傾向が強い)。だが、一方でムスリムたちは神秘主義と哲学を融合させ、独特の発展を遂げさせ現在に至るまで引き継いでいる。
 本書はその「神秘哲学」の流れを平易な言葉で分かりやすく解説している。ロジカルな法学と感覚的な神秘主義はイスラームの二本の柱だが、その神秘主義についても単に感覚だけで物を言っているわけではないのが分かる(そも、本書によれば理性主義的なムウタズィラ神学派がイスラーム神秘主義・神秘哲学の時代的な前提になっている部分もあるという)。
 文章が平易であるとは言え、聞き慣れない単語の多い人もいるだろう。そういう場合は井筒俊彦『イスラーム文化』、同『イスラーム思想史』、菊地達也『イスラーム教 「異端」と「正統」の思想史』あたりと一緒に読むといいのではないか。
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鉄勒京二

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