近況・新刊情報と最近読んだ本など

 師走も早いことで中旬になってしまいましたが、いかがお過ごしでしょうか。そろそろなんだかんだと忙しくなる時期ではあります。
 当ブログは目次の管理が面倒くさくなってきたのでいっそサイトを作るべきかと悩みつつ、なかなか実行に移せないでおります。個人サイトの経営も一時に比べてSNSやブログの普及でかなり下降線をたどっているように思いますが、やはり自由度が高いのは魅力的ですね。

 ところで、時事通信が伝えていますが、ハンガリーのシゲトヴァールで陣没したスレイマン大帝のものと思しき墓が見つかったようです(記事はこちら 「スレイマン1世の墓か=オスマン帝国の大皇帝-ハンガリー」)。確定情報が出るのは発掘が再開される来年4月以降ということのようですが、楽しみに待つとしましょう。
 墓と言えば、墓誌の研究なぞは古代ローマや中国史では盛んなようですが、西アジア史研究においても始まって暫く経つようで、特にイスタンブルの墓地で悉皆調査が行われ、大きな成果を生み出しているとのことです。

 さて、新刊情報。
 トルコ近代史の新井政美先生が『憲法誕生: 明治日本とオスマン帝国 二つの近代』という本を出すようです。発売日は今月24日。クリスマスイブにぶつけてくる河出書房の真意やいかに。
 世界史リブレット人今月の新刊は『マルコ・ポーロ』と『ユリアヌス』。果たして今回は月の変わらぬうちに出るのでしょうか。
 1月には東洋文庫から家島彦一先生がイブン・ジュバイルの旅行記の新訳を『メッカ巡礼記』というタイトルで。藤本・池田両先生監訳版のものが講談社学術文庫に収録されていますが、これが500頁ほど。東洋文庫で三分冊されるということは相当分量が増えることになりますが、訳注が充実するということでしょうか。
 岩波新書1月に五味文彦先生の『中世社会のはじまり』という本がありますが、どうやら岩波新書で中世史シリーズが始まるようです。
 小説の本では佐藤賢一さんがなんとハンニバルを書くようで。こちらも発売日は1月。タイトルはそのものずばり『ハンニバル戦争』。『カエサルを撃て』と『剣闘士スパルタクス』のあとにもう一作ローマものを準備しているという話がありましたが、やっと真打ち登場という感があります。

 以下、最近読んだ本。
 


■呉座勇一『一揆の原理』
 読もうか読もうまいか悩んでいるうちにいつの間にか本屋の棚から消えていましたが、今回文庫に収録されたということで読んでみました。竹槍を持った農民の武装闘争という一揆の従来的なイメージを否定し、近年の研究を引いて「人のつながり」としての一揆像を提示しています(そう言えば尊氏の下に「花一揆」なんていう集団がいたなあなんてことを思い出したり)。
 本書が否定する階級闘争史観に基づく一揆像についてはステレオタイプとしてなるほどそういうイメージはあるなあと思うものの、細かい議論になるとその世代ではないのでなんとなくピンとこないのですが、それをさておいても中世を通じての一揆(本書によると、一揆の最盛期は近世ではなく中世)について詳しいことが知れるのは非常に大きいと思います。
 一旦身分から離れて新たな縁を結ぶ横の契約としての一揆、また体制内訴訟としての一揆(階級闘争史観が説くような反体制運動ではない)という議論は、なかなか説得力があって面白いところ。
 一つ気になるところと言えば、最終的にSNSとつなげてしまうのは(そう取れないこともないとは言え)ちょっと飛躍ではないかなあと(保坂先生が、アラブの春におけるSNSの影響は当初想定されていたよりかなり限定的であった旨『サイバー・イスラーム』で書いてましたし)。
 ともあれ、非常に面白い上に読みやすい本ではあるのでおすすめです。


■カーラ・パワー『コーランには本当は何が書かれていたか?』
 最初はありがちな護教論の本かと思って特に気にすることもなかったのですが、著者の対話相手のアクラム氏が女性ウラマーの浩瀚な研究をしている人だと知って気になったので読んでみました。
 最初の印象通りイスラームは穏当なんだよということを述べている本でした。アクラム氏はかなり洗練された考え方をするウラマーのようですが、とは言え、彼らムスリムがインドでは少数派であり(アクラム氏はインドの人)、他者への配慮がなければ社会生活を送りにくい地域の住民であることを忘れるべきではないでしょう。イスラームが必然的に過激派・他者阻害に繋がるわけではないということを知るには充分ですが、とは言えアクラム氏がムスリムのスタンダードであると思うこともまた問題含みなのでそこに気をつけるべきではあります(あまりイスラームを理想化しすぎると、裏切られた時の反動が怖い、とは池内先生などが言う通り)。宗教思想そのものの評価と、その思想が社会にどういう影響を与えているかの評価(倫理学と社会学の違いとでも言うべきでしょうか)、さらに言えば宗教が示す模範的信徒像とその実際の信徒は違うわけで、その辺りを見誤らずに読むのが肝要かと思います。
 細かい部分で面白かったところと言えば、コーランの各啓示をその啓示の下された時の具体的な文脈に置いて読む、という方法について、具体的に例示されているところと、やはり、アクラム氏の研究である女性ウラマーについての話でしょうか。ここは読みどころであると言えます。 


■池内恵『現代アラブの社会思想』
 以前同著者の『イスラーム国の衝撃』を読んだ時にやたら終末論について詳しかったのが記憶に残っていますが、本書を読むとそもそも著者の関心の一つが終末論にあった模様。ケーススタディの対象はエジプトが多いようです。
 社会主義系のアラブ民族主義の挫折から、イスラーム主義の台頭に繋がるという議論は私市先生の『原理主義の終焉か』で示されていた議論とほぼ同筋。本書に特徴的なのは、その上に重なる終末論の跋扈で、ここが面白いキモの部分なので押さえておくべきでしょう。ただ、誤解を恐れずガンガン突っ込んだ記述をしていくスタイルの上、本書の枠組みに対しては臼杵先生なんかがかなり厳しく批判しているのでそこも念頭に置かねばならないところであります。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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