近況・新刊情報と最近読んだ本など

 もはや私個人の近況でもなんでもありませんが、新刊情報を見ていたところ、講談社学術文庫2月の予定に森谷公俊『興亡の世界史 アレクサンドロスの征服と神話』というタイトルがあるのが目に入ってきました。
 完結が遅れに遅れて2010年なので割と最近のシリーズのような気がしていましたが、興亡の世界史、第一回配本が2006年なのでスタートからもう10年になるんですねえ。大手出版社の世界史シリーズとしては挑戦的なシリーズ構成で、その上当たり外れがあって物議をかもしましたが、今にして思えばこの挑戦じたいが大きな財産ではないかなあと。
 ただ、気になるのは同じく講談社の新版中国の歴史シリーズが2004年スタートなのに未だ文庫になっていないところ。あちらも部分的にキワモノのあるシリーズではありましたが……。
 各社の世界の歴史シリーズですが、通史形式のもので最新になるのは中公の新版シリーズで、ハードカバー版の刊行がはじまったのが1996年。これも20年近く前ということになります。そろそろどこか、特に前に出したシリーズが完全に古くなっている河出あたりが新シリーズを企画してくれないものかと思いますが、さてはて。
 山川の世界歴史大系は1990年に刊行が始まり、現在も続刊中です。山川の書店向けページで確認できるかぎりだと、二期のラインナップで未刊のものでは朝鮮史全二巻、イタリア史全三巻、アイルランド史、ポーランド史、タイ史各一巻が今後出るようです。正直、世界各国史の西アジア史は二冊では分量不足が否めないので大系の方で出して欲しいと切に思うのですが、まだまだ先は長そうな。

 さて、その他の新刊情報。
 山川出版社のサイトによると、なんと世界史リブレット人の今月の新刊の発売日は本日18日とのこと。本当に出てるんだろうか。明日書店に寄ってみます。
 東北の中世史第四巻『伊達氏と戦国争乱』は21日。
 学術文庫1月に橋場弦『民主主義の源流 古代アテネの実験』。サブタイトルを見るに『丘のうえの民主政 古代アテネの実験』の改題でしょうか。また現代新書では乃至政彦『戦国の陣形』。戦国の軍事史というと城関連のものはいろいろありますが、この本は野戦を扱うものになるようです。
 ちくま学芸文庫1月に川北稔『世界システム論講義─ヨーロッパと近代世界』。世界システム論は、論として成り立つか否かという話とは別にヨーロッパ中心主義的であまり好きではないのですが、とりあえず買って読んでみようと思います。
 岩波書店からは新書で1月から新書中世史シリーズが始まる模様。第一巻は五味文彦先生の『中世社会のはじまり』。以下、四巻まで続くようです。

 以下、最近読んだ本(今回は二冊だけ)。
 


■清水克行『喧嘩両成敗の誕生』
 『世界の辺境とハードボイルド室町時代』が面白かったので、清水先生のこちらの本も読んでみました。喧嘩両成敗というのは今でもよく聞く言葉ですが、事の理非を判じず両当事者に制裁を加えるというのはよく考えたら変な話で、その奇妙な決まりがなんで生まれたのか、ということを論じています。
 一旦、喧嘩両成敗法が生まれる前の社会の状況を概観していますが、これがまた集団での復讐が当然視されていた上に強烈な名誉意識があり、紛争の激化を助長していたという凄まじいもの。また、いくつもの法習慣が共存しており(これはかなり人為的に整理されたとは言え現代でもそうで、特に民法は習慣を法源として認めている)、万人の納得する解決というものがなかなか出しにくかったということもある模様。結局、やられた分だけやり返す、やられた分以上にはやり返さない、という素朴な規範意識が当事者間の間でできてきて、それを上位の権力が吸い上げたのが喧嘩両成敗法である、とのこと。
 『世界の辺境と~』との方で、清水先生が本書について、法制史の研究者は法学部を出ていて法文解釈の方に意識が向いていしまうので、本書のように公家の日記から事例を拾って実社会の中での法の働き方(あるいは、働かないなら働かなき方)を分析したのは衝撃だったらしい、というようなことを述べています。言われてみると、法社会学的な観点を法制史に持ち込むのは(法史学も法社会学も基礎法学であるにもかかわらず)あまり行われてこなかったのかもしれません。シャリーアの研究にもこの視点は持ち込めるのでは、と思ったりしますが、既に研究はあったりするのでしょうか。


■『決戦! 三國志』
 歴史小説家によるワンテーマ短編集である「決戦!」シリーズの一冊。これまで同シリーズは戦国がメインだったのですが、今回三國志を扱った巻が出ました。吉川永青、田中芳樹という名前に釣られて購入。
 吉川さんは最近は戦国モノの本が多いものの、やはり三国が本領発揮できる場のようです。作品タイトルは「応報の士」。蜀の謀臣と言えば諸葛亮ひとり抜きん出てあとは忘れられてる感が強いですが、この作品の主人公は法正(また、同じくちょっと影の薄い龐統も出てきます)。入蜀前後に法正がなんだかんだあって怨には怨で返す悪癖は治らないながらも恩には恩でより大きく応えるようになる、という話。
 田中「亡国の後」は司馬昭と劉禅。三国も面白いけどもっと他に面白い時代があるんだよと常々言っている田中センセだけに、なんとなく三国時代のどうしようもなさが現れている時期を選んだように思えます(以前、夏侯覇の短編も書いていた記憶が)。
 他、天野純希「天を分かつ川」は周瑜が主人公で赤壁から亡くなるまでの期間。天野さんの文章を読むのは久々ですが、創作部分さえ受け入れられればこれはなかなか面白かったです(なんだ中国ものもちゃんと書けるんじゃないか、と思ったり)。木下昌輝「姦雄遊戯」は許攸。読んでみると、なるほど短編向きの人物ではあるなあと。東郷隆「倭人操倶木」は倭人を主人公にした変わり種。
 演義のあらすじくらいは知っておいた方がいいとは思いますけれども、魏呉蜀それぞれバランスよく割り当てられていますし、一篇一篇がそんなに長くないのでちょっと何か軽めのものを読みたいなと思う時に読むにはいいのではないでしょうか。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ