近況・新刊情報と最近読んだ本など

 こっそりリンクに追加していましたが、史料和訳のインデックスを復旧させる代わりに『完史』和訳wikiを作ってみました。いくつか記事も追加してあります。以後『完史』を中心に『サラディン伝』、『名士列伝』、『ダマスカス年代記』等の和訳はこちらに順次追加していくことにしたいと思います。

 さて、新刊情報。
 興亡の世界史文庫版、第二回配本は森安先生の『シルクロードと唐帝国』。物議をかもした本ではありましたが、ソグドについてはいろいろ興味深い話が載っています。また、第三回配本は『モンゴル帝国と長いその後』の模様。同じく講談社のメチエ今月の新刊には小泉龍人『都市の起源 古代の先進地域=西アジアを掘る』という本が。主に都市の起源をターゲットに考古学的手法で迫っていくようです。
 ちくま新書3月では細田晴子『カストロとフランコ ――冷戦期外交の舞台裏』。
 イブン・ジュバイルの旅行記新訳、『メッカ巡礼記』二巻も今月。
 吉川弘文館の人物叢書にはなんと『最上義光』が。伊達を中心に見る東北戦国史だと悪者扱いされがちですが、果たしてどう書かれるのでしょうか。

 以下、最近読んだ本。
 

■諏訪勝則『古田織部』
 「へうげもの」で有名な古田織部の評伝が中公新書から出ました。著者は以前中公新書で『黒田官兵衛』を出した諏訪先生。『黒田官兵衛』でも文化関連の分析が多かったように記憶していますが、本書も(そもそも古田織部が茶人であるので当然ですが)文化方面の話がふんだんに盛り込まれています。
 古田家については、織部の直系は途絶えているようで、史料には偏りがあるそうですが、傍系が保管していた史料があったり、書簡などがいろいろ残っているようで、そこから織部の実像に迫っていきます。利休が織部に手紙で皮肉めいた冗談を飛ばしていたりするのが面白いところ。
 若いころの織部は中川清秀と懇意で、清秀が戦死した後は中川家の後見人のようなこともしていたとか。
 本書では、利休の切腹も織部の切腹も、文化人としてのネットワークが天下人にとっての脅威と映ったため、という見解を取っています。政治的なネットワークではないわけですが、だからこそ政治的手法では介入しにくいために危機感を煽ったところもあるのかなあと。
 中公新書の日本中近世史の評伝ものとしては読みやすい部類に入ると思います。古田織部の評伝で簡便なものというとこれまで無かったようなのでおすすめの一冊です。


■中町信孝『「アラブの春」と音楽』
 中町先生は中世アラブ史の研究者ですが、現地の音楽事情にも造詣が深く、その知識をふんだんに盛り込んで書かれています。タイトルが「「アラブの春」と」であるように、単なる音楽本ではなく、社会を映す鏡としての音楽という視点から、エジプトのポピュラーミュージック(エジポップと著者は呼んでいます)と社会・政治・音楽以外の広範な文化等と音楽の関係について問う一冊と言えるでしょう。扱うタイムスパンも長く、戦後主にナセル期以降の40年以上にわたっています。
 政治的自由のない国にあって、一義的には娯楽でありながらも、娯楽意外の要素、特に政治とも強く関わりあう芸術は、ロシア文学を思い起こさせます(もっとも、エジプトにおいては体制側もよく音楽を用いたようですが)。
 歌詞の訳出と、人名のアルファベット転写もあるので、気になった音楽についてはネットで調べて味わうこともできるのも嬉しいところ。
 なお、これ一冊でも十分に興味深い本なのですが、扱われているのは主にエジプトの事例なので、一緒に中公新書の鈴木恵美『エジプト革命』も読むと理解がより深まっていいのではないかと思います。


■天野純希『覇道の槍』
 天野さんの歴史小説を読むのも久しぶりですが、文庫化されたものを書店で見かけ、その場でスマホで評判を確認してみたところ面白そうだったので購入。
 戦国時代も長いわけですが、信長が進出してくる前の畿内というと、あまり書いた作品は見かけません(というか、全国を見渡しても割と早めの戦国時代の武将で何度も小説の主人公になるというと元就か早雲くらいのものでしょう)。そんな中で、本書の主人公はまさかの三好元長。畿内を押さえて権勢を振るった三好長慶の父親に当たる人物です。
 細川六郎(後の晴元)と、足利義維(義賢)と、元長の三人は戦のない世を作ろうと誓い、四国から畿内を目指し、堺公方府を打ち立てるも年月を経た彼らの心は決して変わらぬままではなく――。という筋書き。
 文庫で400頁ほどある上にあまり馴染みのない時代の話(朝倉宗滴や浦上村宗と言ってすぐにどんな人か分かるのはそこそこ戦国時代に詳しい人でしょう)ではありますが、なかなかおもしろく、割と読みやすいのもありがたいところでした。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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