小野亮介『亡命者の二〇世紀』


 亡命者。迫害を避けて国外へ逃れた人々。本書は、ソ連初期の混乱により中央アジアからトルコを中心とした各地へ亡命した人々の足跡を追った一冊である。
 
 著者の小野氏はゼキ・ヴェリディ・トガンの研究を専門にされているそうだ。トガンはソ連領中央アジアのバシキールの民族運動の指導者でバスマチ運動にも参加したが、弾圧によってトルコへ亡命し、歴史学者として名声を得た人物である。
 本書はまず、トルコ人とトルコ主義の概要について述べた後、大きく分けてゼキ・ヴェリディ・トガン、アブデュルヴァッハプ・オクタイ、スリナガルのカザフ人の三者(いずれも西方への亡命者である)を扱っている。また、コラムではクルバンガリー、イスハキー、イブラヒムといった大なり小なり日本とも関わる東方への亡命者について簡単な紹介がある。

 まず、トガン。彼についてはトルコ亡命以降の歴史学者としての活躍に焦点が当てられる。トルコの公定歴史学がかなり政治イデオロギー色の強いものであることは永田雄三氏が早くに論じているが、トガンはどうやらこの公定の「トルコ史テーゼ」に対して反発し、トルコを去ってウィーンへ向かうことを余儀なくされたのだという。その後公の文章では「テーゼ」そのものに対しては反対していないと言い訳がましいことを述べているのだが、著者はここでトガンとオーレル・スタインの書簡に注目し、相変わらず「テーゼ」をトガンが痛烈に批判していることを明らかにしている。
 次に、オクタイだが、タシュケント出身で、ドイツにいたものの二次大戦の勃発によりトルコに帰化した人物である。彼の書簡を通じて、亡命者間のコミュニティの存在と具体的な活動が分かるようだ。フィンランド・タタール人との交流や、ウィーンから帰国したトガンのその後などもこの節で触れられている。
 最後に、スリナガルのカザフ人について。この節は亡命者個人ではなく、新疆からの集団亡命者を扱っている。

 70頁弱のブックレットではあるが、他書では全く見ないテーマについて扱った本であり、また著者の専門であるトガンに関しては必読であろう。頁数は少ないのですぐ読めてしまうが、熟読したい一冊である。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ