近況・新刊情報と最近読んだ本など

 そろそろ寝苦しくなってくる時節ですがいかがお過ごしでしょうか。そろそろエアコンを入れたいとおもいつつ、我慢している今日このごろです。
 世間ではラマダーン月真っ盛りだそうですが、この時期に日中断食(水も飲めない)はなかなか厳しいものがありそうです……。

 さて、新刊情報。
 世界史リブレット人、今月の新刊はムハンマド・アブドゥフ。発売日は17日で、今回は一冊だけの模様。アフガーニーも別立てで用意されているので、かなり厚遇されていると言えるのでは。
 岩波新書6月には松沢裕作『自由民権運動〈デモクラシー〉の夢と挫折』 、発売日は21日。
 東洋文庫7月に『呉越春秋』、有名な古典ですが、まだ東洋文庫に収録されてなかったんですねえ。
 同じく7月、吉川弘文館の読みなおす日本史シリーズに『吉野の霧 太平記』が収録されるようです。

 以下、最近読んだ本

■小松和彦『呪いと日本人』
 所用で呪術関連を扱った民俗学の本を探していて、よさそうな一冊があったので手にとった本。
 民俗学は時にオカルティックな社会現象まで対象としますが、著者がどこで一線を引いているのか見極めないと対象に呑まれるかねない雰囲気が。本書の場合、呪いを恐れる心性があるところまでは著者も否定していないので、気をつけたいところです(「共同幻想」などの分析のためのキーワードを見落とさないようにしたいところ)。レヴィ=ストロースが画期となった理由もわかるというものです。
 もっとも、紹介されている内容自体は興味深く(著者は四国の山奥でいざなぎ流の調査をしていたとのこと)、原本は1988年刊で、当時は色々と手探りだったんだなあということは分かって面白いです。


■松尾剛次『葬式仏教の誕生――中世の仏教革命』
 こちらも所用で。
 現代日本では本人や家族にこだわりが無い限り仏式で葬式をすることが多いわけですが、もともと、神道では「穢れ」を嫌うため、中世まで人の遺体は道端や河川敷に遺棄されるのが普通だったそうです。古代の仏僧は基本的に官僧であったため、神仏混淆下の社会では神事に関わることも多く、神道側の理屈に巻き込まれ、「穢れ」を厭わざるを得ませんでした。
 とは言え、親しい人が死んだら弔いたいと思うのが人情というもの。そういう思いに答えたのが鎌倉時代に現れた鎌倉新仏教と旧仏教改革派でした(最近の研究では、鎌倉時代の間は鎌倉新仏教よりも旧仏教改革派の方が影響力が大きかったとのこと)。彼らは白い袈裟を纏う官僧に対し、官界に関わらない遁世僧とし黒い袈裟を纏い、独自のロジックを打ち立てることによって穢れのタブーを乗り越え、ためらいなく死者を葬送するようになります。これは革命的な出来事で、彼ら遁世僧は官僧たちからは穢れた存在と見られたようですが、民衆たちにとってはきっとありがたい存在だったのだろうなあと思います。
 その後仏教は寺請制度などの上にあぐらをかくようになり、現在と似たような葬式仏教と化していくわけですが、葬式仏教誕生当時のことを思うと単に「葬式仏教」という成語を揶揄に使うわけにはいかないなあと思うのでありました。


■佐藤弘夫『鎌倉仏教』
 所用で調べてたはずがだんだん面白くなって鎌倉仏教に足を突っ込むことに(寄り道は割といつものことですが)。
 法然、親鸞、日蓮あたりがメインで、あとは道元がちょろっと出てくるくらいでしょうか。上の『葬式仏教の誕生』を読んで、旧仏教改革派の叡尊・忍性について興味が出てきたんですが、その辺の記述はほぼなし。ただまあ、鎌倉仏教の出てくる前提となった鎮護国家を専らとする旧仏教の性格や、既に念仏が民衆に広まっていた中での法然・親鸞の革新性などが分かってかなり勉強になりました(念仏以外否定するところまで行っていたそうな)。
 ちょっと階級闘争史観じみているところがあるので、そこはよくよく検討しつつ読みたいところですが、基本的には良書であると思います。


■池内恵『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』
 池内先生の新刊。確かに現在の中東の混迷の原因の一つにサイクス・ピコ協定はあるけれども、それを指摘するだけで何か分かった気になるのなら、それは思考停止にほかならないのでは、という指摘、まさに御説御尤も。
 現在の中東の混迷の原因を一度100年前まで遡って腑分けした後、細部を解説していくという方向で執筆されている模様。言い切り、断定など、部分的にひっかかるところもあり、何かに使う場合は裏を取ったほうがいいなとは思いますが、見取り図としては非常に役立つと思われます。特に、現在のクルド関連の組織についてはよくまとまっていて便利。
 新潮選書としては140頁と薄く、値段も手頃かつ文章も読みやすいので(読みやすさに引きずられて全部鵜呑みにしてはいけませんが)、気になる人にはマストアイテムかと。
 池内先生曰く新潮選書中で「中東ブックレット」として連続刊行していく第一冊目のつもりだ、とのことですが、さて、次は何が出るのでしょうか。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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