金子民雄『ルバイヤートの謎』


 ペルシアの四行詩「ルバイヤート」と、その最も有名な作者であり、一般名詞であったルバイヤートを当人の作品を指す固有名詞と成さしめた詩人オマル(ウマル)・ハイヤーム。本書は、ルバイヤートとオマルにまつわることがらを著者が思うまま記した一冊である。
 
 著者の金子氏は西域探検家に関する著作や翻訳の多い方だが、ルバイヤートにも一家言あるという。若いころにたまたま出会った小川亮作訳の岩波文庫版『ルバイヤート』に生き方を変えられたからだというが、多国語訳のものを集めたり、現地に赴いたり、果てはタイタニックとともに沈んだ「孔雀のルバイヤート」の復刻版(宝石で装飾された稀覯本である)まで目にしているというのだから驚く。

 研究書ではないと著者が断っている通り、エッセイ風のところもある本だが、紹介されている事実はなかなかおもしろいものが多い。バイハキーの記述やアイリー・イブン・ザイードの回想(ガザーリーとハイヤームが顔を合わせたことがあったという)なども引用し、当時のハイヤームに迫るとともに、近現代においてルバイヤートをめぐって起きたドラマ(ルバイヤート本の贋作の話など)まで話が及ぶ。宮沢賢治がルバイヤートに影響を受けていたかもしれない、という話は著者の推測の域を出ないが、なるほど読んでいるとその可能性は否定出来ないかもしれないと思わせる。

 いくつか本書に補足しておくべき点があるとすれば、まず近年、科学者・数学者であったオマルと、詩人であったオマルが別人ではないかという説が出ていること。これは伝ウマル・ハイヤーム著「ノウルーズの書」(訳注 守川知子・稲葉穣)の解説を参照のこと。
 いまひとつは、ルバイヤートの和訳を紹介しているページでは省かれているが、中国歴史小説の大家、陳舜臣氏も原点のペルシア語からルバイヤートの和訳を行っていること。陳舜臣訳『ルバイヤート』は集英社から出版されている。

 いずれにせよ、ペルシアの詩人についての本は近年刊行されていなかったので、気軽に読めるところも含めて、おすすめしたい一冊である。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ