近況・新刊情報と最近読んだ本など

 誘われて呉越国展と大妖怪展に行ってきました。
 呉越国展の方は案の定というかなんというか祝日だというのにあんまり人がおらず。ゆっくり見れたのでそれはそれでよかったのですが。仏教関連の遺物が多く、江南らしいなあというところ。
 大妖怪展は妖怪だけでは間が持たなかったのか幽霊や、こちらも仏教関連の展示が見られました。

 さて、新刊情報。
 吉川弘文館11月の「人をあるく」シリーズは中澤克昭『真田氏三代と信濃・大坂の合戦』。大河の放送中にねじ込んできた感じでしょうか。
 彩流社12月には『スペインレコンキスタ時代の王たち(仮): 中世八〇〇年の国盗り物語』という本が。学術書というより読み物に近い感じのようです。
 明石書店からはエリア・スタディーズシリーズの新刊が二冊。森井裕一[編著]『ドイツの歴史を知るための50章』、立石博高・内村俊太[編著]『スペインの歴史を知るための50章』。いずれも10月31日発売となっています。

 以下、最近読んだ本。
 

■田中健夫『倭寇――海の歴史』
 もう何年も買ってそのまま積読だった本なのですが、ちょっと東アジア海域史に手を出す事情があったので読んでみました。もとは1982年の出版ということで、30年以上前の本ですが、倭寇に関する史料をできるだけ多く拾ってきて記述するという方針で、当時の研究の段階が見えて興味深いところ。「倭寇」と呼ばれたという共通点があるだけで、その性格があまりに違うので「前期倭寇」「後期倭寇」という言葉は使わない、とのこと。
 貿易商としての倭寇の活動や、中国人の日本認識の変遷などにも頁が割かれており、また扱われる史料も日中朝に加えて欧文のものも取りそろえ、倭寇を当時の東アジアの中に位置づけられています。
 王直ら倭寇の指導者についての記述も多いのはうれしいところ。
 非常に読みやすい本で、またその後の研究の展開については村井章介先生が巻末の解説で簡単に触れています。古いとは言え、とっかかりにするには良い本だと思います。


■劉岸偉『李卓吾――明末の文人』
 李卓吾は陽明学左派の思想家として有名な人物ですが、家系に西域の人(いわゆる色目人)の血が入っていたらしく、また先祖に漢人の改宗ムスリムがいたようで、そっち方面から気になっていたところ、たまたま古本屋で見つけたので購入しました(ただし、本書にはイスラームのイの字も出てきませんでした)。
 記述は必ずしも時系列順ではなく、彼の思想の内容についても必要とされる予備知識が多い記述になっているので少し骨の折れる本ではありましたが、それでも李卓吾が割とエネルギッシュかつとんがったところのある人物だったのだなあということはよく分かります。
 李卓吾は中国でだけインパクトの強い人物かと思っていたのですが、本書によるとそうでもないらしく、吉田松陰が彼の影響を受けていたことが確認できるとのこと。
 いずれ陽明学の基礎を押さえて再読したい本です。


■呉座勇一『応仁の乱――戦国時代を生んだ大乱』
 中公新書の新刊です。中世の奈良の中心勢力であった興福寺の別当経覚と尋尊による視点を通じて応仁の乱を読み解こうという本。とは言え、応仁の乱の理解に必要なことは興福寺と関係がなくともきっちり触れられているので視点の偏りによって全体像が見えにくくなるということはありません。
 応仁の乱と言えば戦国時代の幕開けを告げる大乱でありながら、膠着状態に陥ってなんだかよく分からないまま終息したというイメージを持たれており、実際複数のファクターの利害が絡み合ってぐちゃぐちゃになっているあたり、それも無理はないなあというところ。
 著者の呉座先生は第一次世界大戦に似ていると述べていますが、確かに同盟関係と面子の問題でそれまでそこまで関係の悪くなかった細川と山名がドンパチをはじめたり、両勢力が京都の各拠点に堀を切り、櫓を建てるなど半要塞化し、戦線が膠着してしまうなど、第一次世界大戦の同盟関係の錯綜による芋蔓式の参戦と、塹壕戦による膠着を見るようであります。
 わが地元の赤松は利害が錯綜する中でも播磨の奪還と山名をぶちのめすことしか考えていないので大変分かりやすいと言えるでしょう。
 他には、案外足利義政が積極的に動いていることが分かったのが面白かったところでしょうか。とは言え、裏目に出てしまうことも少なくないあたり、評価は微妙にならざるを得ないのでありますが。
 全体を通じて、なるだけ分かりやすく書こうという意思は見えますし(前後の記述と関連する場合、ちゃんとどこを参照すればいいか頁数が示してあります)、実際文章は割と読みやすいのですが、いかんせん応仁の乱そのものがややこしいのでじっくり腰を据えて読みたい本ではあります。見通しさえ立てば読み通すのにさして苦労はしないと思うので、興味のある方は是非。


■黒田基樹『真田信繁』
■外岡慎一郎『大谷吉継』
 戎光祥出版の新シリーズ、「実像に迫る」の第一巻と第二巻です。判型とページ数で山川の日本史リブレット人に近い感じなのかと思っていたところ、注も頁内に収める方針のようで、思った以上に似ていました。ただ、本文全頁カラー刷りで図版が多いあたりは戎光祥出版の本だなあといったところ(図版に「当社蔵」と書いてあるものがちょくちょくあるのが流石というか)。ただ、その分頁数の割に少々値が張るのですが……。
 黒田先生の『真田信繁』の方は最近の信繁研究の結果をコンパクトにまとめたという感じで、著者ご本人の真田本や、著者と同じく大河真田丸で時代考証に携わっている丸島・平山両氏の本を読んでいればさほど目新しい記述は無いかな、といったところ。まあそもそも真田信繁という人物自体があまり史料が多くなく書くことが少ない人物ではあるのでしょうが。とは言え、ざっと信頼できる概要を掴みたい人にはいいのではないでしょうか。
 外岡先生の『大谷吉継』については吉継関連の本を読むのが初めてなのでいろいろ詳しいことが分かって勉強になりました。どうも吉継について書いた本というのは知名度のわりに少なかったらしく、本書の内容を読んでも案外分かっていることが少ないということが分かります。そもそも父親についても誰だかよく分かっていないとか。
 今後のシリーズ展開としては三巻が『長野業政と箕輪城』、四巻『鍋島直茂』、五巻『小早川秀秋』、六巻『楠木正成・正行』というラインナップになっているようです。シリーズの「刊行にあたって」には「著名であるにもかかわらず、手頃な概説書がない人物や城郭、事件・合戦」について、研究者に平易に書いてもらうシリーズを目指す、ということが述べられています。著名な人物などでこれまで概説が無いとなると、史料の関係で新書や選書ほどのページ数を稼げない対象が多くなると思うので、この体裁にしたのは正解だったのではないかなと思います。今後とも戎光祥出版には頑張ってもらいたいところです。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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