近況・新刊情報と最近読んだ本など

 すっかり間があいてしまって、スターク『十字軍とイスラーム世界』のレビューを書くまでの数日間広告が出てしまっていました。ちょっと事情があって調べごとに時間をとられていたので、歴史から離れていたわけではないのですが、流石に一ヶ月無更新というのは無いようにしたいところです。
 下でも書きましたが大河『真田丸』もそろそろ最終盤になりました。今のところ見逃しは無いので、全話完走を目指したいところです。関連本も今年は豊作だったので、そこも含めて当たり年だったなあと。

 さて、新刊情報。
 山川の世界史リブレット人12月の新刊は安村直己『コルテスとピサロ』。書店向けページには屋敷二郎『フリードリヒ大王』も上がっていましたが、山川のことなので年明けに延期でしょうかね。
 中公新書12月に藤澤房俊『ガリバルディ――イタリア建国の英雄』が。イタリア三傑のうちでも一番ワイルドな男というイメージがありますが、果たしてどういう内容になるのでしょうか。
 ちくま学芸文庫12月に羽田正『増補 モスクが語るイスラム史』。中公新書からの再録。近年、羽田先生は「イスラーム史」という枠組み自体に批判的になってきていますが、増補はそのあたりの事情を汲んだものになるのかなと思います。
 岩波12月でタヌーヒー『イスラム帝国夜話』が森本公誠先生の和訳で。結構なお値段になっていますが……。また、岩波新書1月で池田嘉郎『ロシア革命 破局の8か月』 。
 白水社1月には『覇王と革命』の杉山祐之氏の『張作霖 爆殺への軌跡1875-1928』。
 戎光祥出版のシリーズ「実像に迫る」の12月新刊は岩松要輔『鍋島直茂』と久保田順一『長野業政と箕輪城』。
 

■早島大祐『足利義満と京都』
 吉川弘文館「人をあるく」シリーズの一冊。著者は『室町幕府論』や『足軽の誕生』の早島先生。
 義満と言えば一時期王権簒奪論がけっこうな論争になっていましたが、小川剛生先生の『足利義満』で解説されていた通り、簒奪論は現在否定的な見解が主流のため、過去の話ということで本書ではさらっと流されています。
 内容はほぼ時系列順で、細川清氏の反乱と赤松屋敷への避難から話が始まり、明徳の乱、南北朝の合一、義満の出家と話が続き、本シリーズおなじみの紀行コーナーでは、(申し訳程度にアクセスについて書かれた後)相国寺や金閣などと義満の関わりなどがけっこうな分量で述べられています。
 中でも興味深いのは寺院政策から見える義満像にかなり頁を割いていることで、参詣の回数などから、義満の軍事威圧、天下の視察、そして本来の参詣の目的である宗教的意図などの多方面から分析しています。
 また、幼年頃から義満と赤松義則とは親密だったのではないかという推測もあり(この二人と、さらに義満と良くも悪くも因縁浅からぬ後円融天皇は同い年とのこと)、義則も折に触れて顔を出していて面白いところです。


■公益財団法人福島県文化振興財団[編]『直江兼続と関ヶ原』
 大河ドラマ『真田丸』もそろそろ終盤ですが、いい味を出している脇役に直江兼続がいます。番組公式ホームページの特設コーナーに役者の村上さんによる直江状の全文朗読(11分もあります)が掲載されているなど人気も高いようです。
 世間の兼続人気もあって、長い間積んでいたこの本を読んでみました。
 上杉家から家康に送られた「直江状」ですが、これを受けて家康が上杉討伐に赴いたところ、石田三成らの挙兵があって家康は西へ引き返すことになります。石田勢と徳川勢がぶつかり、これがかの有名な関ヶ原の戦いとなるわけですが、じゃあ、その切っ掛けになった上杉家、就中、直江状を書いた直江兼続は関ヶ原の戦いがあったころ、何をしていたのか、というのが本書の中心になる話題。
 最上や伊達といった奥羽の大名たちと鎬を削る様子を追いつつ、神指城築城の理由を考古学調査の結果をもとに考察したり、直江状の真偽(偽書説もあるそうです)の検討を行ったりしています。
 本書はもともと部数限定で福島県文化振興事業団(現・同財団)が出版していたものです。すぐ品切れになり、再発行の要望が多く寄せられていたものの、震災の影響で手が回らなかったところを、戎光祥出版が拾ったという形になるようです。こういう事態に際しては戎光祥は実に良い仕事をするので今後とも頑張って欲しいものです。


■黒田美代子『商人たちの共和国』
 1995年出版のものの新版です。著者は既に亡くなっているので、内容に違いはないようです。新版で新しくなったのは黒田壽郎先生の序がついたことですが、これはあまり本文には関わりないので旧版でも新版でも実質そんなに価値は変わらないかなと。
 本書はシリアの大都市アレッポのスーク(市場)をケースにして、フィールドワークを通じて伝統経済について考察した一冊、ということになります。近年出た同じようなテーマの本だと『個人主義大国イラン』がありますが、あちらはアパレル産業全体を見ているので(とは言えあちらもフィールドワーク本なので末端の話も多く出てきますが)必ずしも一つの市場に焦点を絞っているわけではありませんし、イランとシリアという地域の違いもありますので、読み比べてみると面白いかもしれません。
 アレッポと交易の歴史から始まり、アレッポのスークの地理的な分析(地中海世界のアラブ圏によくある迷路のような市街になっているようで)、フィールドワーク、そして伝統経済の分析、という構成になっています。個々の商人たちの顔の見える記述が多く、興味深い上に読みやすくなっています。
 帯にある通り、シリアでの動乱を受けて新版発行に至ったようですが、本書にあるような日常の営みが一刻も早く戻ることを願ってやみません。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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