今井宏平『トルコ現代史――オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで』

 
 トルコ共和国の近現代史を取り扱った書物で邦語のものと言えば新井政美『トルコ近現代史』や同氏編著の『イスラムと近代化』、イルテル・エルトゥールル『現代トルコの政治と経済』などがあるが、新書クラスの本で概説をひととおり手軽に読めるものというと実は今までほぼ無かった。
 今回出版された本書はその穴を埋めることになる一冊である。
 
 高校世界史で取り扱われることもあってトルコ革命の知名度は高い。第一次世界大戦で滅亡の淵に追い込まれたオスマン帝国はもはや回復する兆しなく、見切りをつけたムスタファ・ケマルはアンカラに新政府を打ち立て祖国解放戦争を戦い抜き、トルコ共和国の初代大統領となる――しかしながら、その後のトルコ共和国の歩みについてはあまり知られておらず、近年ニュースに時折エルドアン大統領が顔を出すので名前は知っているという程度の人が多いだろう。
 本書はそのトルコ共和国の歴史について、トルコ革命から、直近の2016年までを通史的に叙述する本である。
 内容は内政と外交の二本立てになっているのだが、内政についてはケマルの示したいわゆる六本の矢、また外交については同じくケマルの示した「国内平和・世界平和」を、それぞれ軸として見ていく。
 詳細は読んでもらえればいいが、六本の矢じたいは護持はされているものの時代によって読み替え・変容を余儀なくされている旨が本書を通じて述べられており、終章でも改めてそれが示されている(ゆえに、恐らく編集者が考えたのであろう帯の文句はいささかミスリードではないかと思うのだが)。

 トルコはアジアとヨーロッパのはざまなどと言われるが、冷戦期のことを思うと東側と西側のはざまでもあって、建国当初はソ連と良好な関係を築き、西側諸国の一員となってからも東西両陣営の思惑に目を光らせていなければなからなかったことが本書を読むと分かる。「国内平和・世界平和」は、トルコの文脈では「国際社会において平和裏に生存する」ことであると著者は述べており、実際にその外交政策は現実主義的なものであったと著者は本書で示している。
 国内政治に関しては、野党を含む各政党の縦の流れ、横のつながりについて詳しく、また国内問題としてクルド問題などについても目配りがされている。共和人民党の一党独裁期から複数政党制への移行、民主党の躍進、60年クーデターによるリセット、公正党の伸長と連立政権の連続する混乱期、80年クーデターによる再度のリセット、そして祖国党の時代から公正発展党の時代へ。
 複流となるクルド系政党や、現在の民族主義者行動党の前身となる民族主義政党にも光が充てられており抜かりない。

 全体を通じて手広く、かつ簡潔にまとめられており(その分やや単調な記述が続く部分もあるが、利便性のことを考えるとそれはそれで致し方あるまい)、手元においておくと実に便利な一冊であると言えるだろう。
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鉄勒京二

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