山田重郎『ネブカドネザル2世』


 世界史リブレット人の一冊。副題は『バビロンの再建者』。
 
 ネブカドネザル二世というと、聖書にあるバビロン捕囚で有名な新バビロニア王国の王である。聖書に名前が出て来るおかげで古代オリエントの王としてはかなり知名度の高い部類の人物であろうと思うが、さてその実態についてはどれほど知られているだろうか。というか、そもそも聖書などに頼らない確度の高い情報はあるのだろうか。本書は、そんなネブカドネザルの評伝である。
 意外なことにネブカドネザルに関わる現存の同時代史料は多いらしく、本書ではそれらの史料とそれに基づいた研究をもとに、ネブカドネザルの実像に迫っている。

 話は前史からはじまっており、新バビロニア王国(カルデア王朝と呼ばれることもあるが、著者によるとこの王朝がカルデア人の家系である証拠は無いという)に至るまでのバビロンの歴史の概略が示されている。新バビロニア王国は、オリエントの覇権を握ったアッシリア帝国が前七世紀の末に瓦解していく中で、反乱指導者ナボポラサルに率いられ独立した国であった。ナボポラサルは前626年にバビロンで王位につくが、その息子がネブカドネザル二世である。
 ネブカドネザルの行動は即位前からある程度再現できるらしく、ナボポラサルの晩年には軍を率いてエジプトのファラオ・ネコ2世と戦っていたりする。
 即位後のネブカドネザルは各地へ軍事侵攻を行い、新バビロニア王国をかつての新アッシリア帝国とほぼ同等の領土を持つ大国へと発展させる。バビロン捕囚もその過程でのことであり、あれ一つが突出した事件というわけではなかったらしい。ナボポラサルはメディアとは同盟を結んでアッシリアを放逐したが、エジプトとは現在のシリア地方の領有権を巡ってネブカドネザルの時代でも激しく争っていたようだ。

 ネブカドネザルの生涯たどるのは概ね前半で終わり、後半では彼の時代の新バビロニアの支配体制や国家のシステム、建設事業や祭儀などにページが割かれている。直近の大帝国であるアッシリアの影響はやはり大きいようで、行政組織はバビロニアの伝統的なものではなくアッシリアをモデルとして再構成されており、またバビロンの建築事業に関しても当地の伝統的な都市プランにアッシリア式の都市プランの影響も見られるという。

 古代オリエントの歴史は長いが、本書では聖書などでのイメージにとらわれないネブカドネザル像を知ることができる他、アッシリア崩壊後のいわゆる四王国時代の一面も新バビロニアの視点から見ることができるので、その点でも有用であるといえる。前史も割りとしっかり書かれているが、ページ数じたいはコンパクトであり、とても読みやすい一冊であった。
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鉄勒京二

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