近況・新刊情報と最近読んだ本など

 年度も変わりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。
 どうも季節の変わり目というのはよろしくないらしく、私は体調崩して寝込んでいました。この時期は毎年風邪を引きやすいので気をつけてはいたんですが、どうも引越し先で気候が違ったのが良くなかったらしく(今は元気です)。

 そう言えば、スニーカー文庫からユスティニアヌス時代のビザンツ帝国を舞台にしたライトノベル『緋色の玉座』が出るようです。戦国・三国ものはさておき、こういう本格派寄りの歴史ライトノベルは最近見てなかったので応援したいところ。読んでみて面白ければ、通常のレビューではなくて特集記事みたいなのを書いてみたいなあと思います。

 さて、近刊情報。
 明石書店の世界歴史叢書からチャールズ・キング『黒海の歴史』が今月20日。
 山川の「宗教の世界史」シリーズから小島毅『儒教の歴史』が5月28日に。このシリーズも忘れた頃に新刊が出ますが、今回は儒教。
 中公新書5月の新刊では桜田美津夫『物語オランダの歴史――大航海時代から「寛容」国家の現代まで』。中公新書の物語シリーズは各国色々出てますが、意外なことにオランダはまだだったんですねえ(ベルギーは出てるのに)。
 世界史リブレット人、渡部良子『ラシード・アッディーン』は、だいぶずれ込みましたが和田春樹『レーニン』と一緒に5月に出るようです。渡部先生はどちらかというとモンゴル帝国史ではなくイラン史方面からモンゴル時代イランを研究されている方ですが、どういう切り口になるんでしょうかね。
 勉誠出版からはなんと『隋書』の邦訳が! 『中国史書入門 現代語訳 隋書』というタイトルでこちらも5月。本紀全文と列伝のピックアップの邦訳ということになるようです(列伝のチョイスについては勉誠出版の書籍ページを参照)。全訳ではありませんが、それでもA5判520ページという大冊。この調子で他の正史の邦訳も出たらありがたいなあと思いますが、さて。
 日本史の方では真田丸が終わっても相変わらず精力的な黒田基樹先生が角川選書から『井伊直虎の真実』という本を。発売日はこれも5月。

 小説では佐藤賢一さんが中公からモハメド・アリを扱った一冊を出すようです。タイトルは『ファイト』で発売日は5月18日。

■杉山祐之『張作霖――爆殺への軌跡一八七五-一九二八』
 以前に同じ著者の『覇王と革命』という本も紹介しました。あちらは清末民国期の軍閥全般について書いた本でしたが、こちらは軍閥の中でも張作霖の奉天軍閥に視点を絞って書いてあります。日本では爆殺事件ばかりが有名な人物ですが、革命派が南の端で挑戦と挫折を繰り返している頃に、民国北京政府の動向も大きく左右した東北の雄でありました(日本側としては各軍閥が割拠している中、満州を支配する張作霖を支援することによって張から権益を確保しようという思惑から協力関係を長く続けていたものの、張が思うままにならぬことに不満を抱いた一部軍人が独走して張を爆殺)。
 それにしても既に20世紀に入っているのに一代の英雄が「地方に割拠し」、「軍事で」のし上がっていくというのはなかなか凄まじいものがあります。大軍閥が30万、地方軍閥でも10万規模の兵力を普通に動員しているあたり、流石に中国だなあというところ。
 張作霖死後、張学良には奉天軍閥を割拠させておく力がなかったり(本人もそれを自覚していたので蒋介石に協力するわけですが)、王永江亡き後の東北の財政状況が目も当てられない惨状と化したり、張作霖の奉天軍と覇を競った直隷派の呉佩孚の軍が無敵を誇っていたり、いずれであれ個人の力によって、また侠気や仁義、その魅力に状況が大きく左右されていて、システムが未完成な時代の空気というものを感じます。


■生駒孝臣『楠木正成・正行』
 戎光祥出版の「実像を知る」シリーズの一冊。
 最近までの正成研究の成果をコンパクトにまとめた一冊になっています。が、やはりどこかで読んだような話が多いので史料の少なさはどうしようもないのだなあ、という感想。正行に至っては一次史料が正成に輪をかけて少ない上に活躍した期間もあまりに短いので、だいたい太平記および日記類の記述を追っていくに留まっています(このあたり、例えば世界史リブレット人シリーズが本人の話があまりできない時によく使う手ですが、現在の楠木正成のイメージの形成過程を追うような記述があっても面白かったのではないかなあと思います)。
 とは言え、文章は読みやすいですし南北朝動乱の基本的な流れを押さえた上で、正成・正行の生涯をざっと概観する分にはいい本でしょう。また、このシリーズの特徴としてカラー図版が多く、各地の正成像や正成が使ったと伝わる武具などのきれいな写真も多いのでそのあたりが目当ての人はいい買い物になるかと思います。


■亀田俊和『征夷大将軍・護良親王』
 上と同じく「実像を知る」シリーズの一冊。
 活躍期間が短いということに関しては護良親王と楠木正成はあんまり変わらないわけですが、こちらは護良親王に関する論点ごとに研究を整理してあるのがありがたいところ。
 興味深いのは河内祥輔氏の研究をひいて、正中の変の黒幕が後醍醐帝ではなく彼が疑われたのが冤罪だった可能性について指摘している部分。該当の河内氏の論考は既に10年前ものなのですが、最近書かれた本でも紹介されているのを見ないなあと思っていたところ、亀田先生から直接、学界でも異端の説であるが亀田先生は説得力があると思っている、と教えていただきました。
 また、護良失脚に関しては帝位簒奪計画があった可能性は低く(母親の家柄にこだわる後醍醐帝が護良を後継者と考えていた節は無い)、やはり護良が尊氏暗殺を企てたから、という結論になるようです。とは言え暗殺計画の背後に後醍醐帝が黒幕として存在していた可能性もまた低く、護良の独走である、としています。
 息子の興良親王についても少し頁が割かれていますが、こちらは赤松氏関係ではちょくちょく名前は見ますが南朝のメインストリームには乗れず、結果的に南朝内紛の火種になってしまっていた模様。親子揃ってアグレッシブな割に報われないなあと思いました。


■小山聡子『浄土真宗とは何か――親鸞の教えとその系譜』
 浄土真宗の開祖、親鸞およびその師法然、そして親鸞の後継者たちの実像を、歴史学的に明らかにしよう、という一冊。
 教学研究、あるいは自身が信仰するための勉強ならば教団が用いるテクストを辿っていけばいいわけですが、歴史の中を生きた彼らの姿を探ろうとする時、それでは理想化のバイアスがかかってしまい、実際のところが見えなくなってしまう、という問題があります。本書では、教学に関するテクストだけではなく、親鸞やその家族の書簡、第三者が彼らについて書き残している日記、状況証拠なども含めて検討することで彼らの実像について迫っています。例えば、親鸞が越後に流罪になったのとほぼ同じタイミングで親鸞の伯父が越後権介に任じられており、越後で厳しい生活を送ったというイメージとは裏腹に、伯父の保護のもとにあった可能性が高い、というような話は親鸞と同時代の任官記録などを調べて分かることで、親鸞の伝記や教学テキストからは見えてこない事実であるわけです。
 本書によると、親鸞らは自力を否定し、阿弥陀仏へすがり、他力によって救われることを説いたものの、原理的にはさておき実際の信仰としては同時代の世界観の前提となっていた呪術とも無縁ではなかったし、現世利益ともまた無縁ではなかった、ということになっているようです。念仏による往生という考え方は旧仏教にも存在しており、従来言われていたほど親鸞らは革新的ではなかった模様。
 とは言え、彼らが救済の平等性を説き、宗教的弱者にも救いの道を開いたことまで否定する必要はなく、自力の修行に励む時間的・金銭的余裕がある者、また仏教の教学を深く理解した者、要するにインテリ・エリートにしか与えられなかった宗教的救いを広く一般に広めた、というところまではやはり認めてもいい、というところでしょうか。
 従来の研究史の整理は冒頭ではなく最後の方、250頁以下にあるので、その辺押さえておきたい方は先にここから読むほうがいいかもしれません。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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