近況・新刊情報と最近読んだ本など

 貴重なビザンツ帝国を舞台としたライトノベル、『緋色の玉座』を早速買って読みました。一巻目はユスティニアヌスが即位するタイミングまで。主人公ベリサリウスは真面目なカタブツ、相棒プロコピオスは皮肉屋ながらベリサリウスを評価している、という王道の凸凹コンビになっています。ライトノベルなのでもっとファンタジー気味かと思っていましたが、少し魔術絡みの便利ツールが出て来るのと、指揮官どうしの一騎打ちがあるのを中心に個人武勇の比重が大きいこと以外は割と手堅くまとまっていて好印象です。
 著者のTwitterによると二巻の原稿ももう出来ているとのことなので近々続刊も出ることでしょう。


 さて、新刊情報。
 戎光祥出版の「実像を知る」シリーズ今月の新刊は金松誠『松永久秀』と天野忠幸『荒木村重』。特に松永久秀という人は俗流のイメージと最近の研究で明らかになってきた実像の乖離が戦国時代の人物の中でも特に大きいと思うのですが、気軽に手に取れる本で彼について知ることができるのはありがたいことです。
 今月17日発売の集英社新書に片平孝『サハラ砂漠 塩の道をゆく <ヴィジュアル版>』。歴史の本ではないようですが、塩金交易の道を実際にラクダで踏破した記録のようで、なかなか面白そうです。
 講談社選書メチエ6月からは二点。まず白石典之『モンゴル帝国誕生――チンギス・カンの都を掘る』という一冊。言わずと知れたモンゴル考古学の白石先生がメチエから出すとなればこれはもうマストアイテムでしょう。
 二点目は後藤敦史『忘れられた黒船――アメリカ北太平洋戦略と日本開国』。
 発売日はいずれも9日。
 同じく講談社の学術文庫6月には澁谷由里『馬賊の「満洲」 張作霖と近代中国』。メチエの『馬賊で見る「満州」』の文庫化でしょうかね。

 以下、最近読んだ本。
 

■鹿毛敏夫『アジアのなかの戦国大名――西国の群雄と経営戦略』
 一部の西国大名についてはまるで天下統一レースのような日本一国史観ではなく、東アジアの中に位置付けた方がいいのではないか、という議論は著者の鹿毛先生が主導してしばらく経ちますが、本書はその研究成果を一般向けに紹介した一冊。
 特に強調されているのは戦略物資としての硫黄の重要性とその輸出です。同時期では灰吹法の技術導入と石見銀山などの開発によって日本銀の生産量が増大し、それが世界史的な影響を与えた、というトピックは割とメジャーになりつつあります(本書でも触れられています)が、一方その影に隠れて硫黄についてはあまり注目されていません。古代から貴金属としての価値がある銀とは異なり、硫黄は火薬の発明によってその材料として価値が高まりました。中国は良質の硫黄鉱山がなく、これを輸入に頼ることになります。そこで幕府からいわゆる遣明船事業を引き継いだ西国大名が硫黄を武器にし始めるということの模様。
 硫黄の他にも渡来した「唐人」たちの日本社会内での有り様や、九州大名たちの対東南アジア外交など、面白い話題が多いので、一読の価値ありです。もっとも、研究が端緒に付いたばかりの部分も多い様子なので、これからにも期待というところでしょう。


■岡本隆司『中国の論理――歴史から解き明かす』
 岩波新書の檀上先生著『天下と天朝の中国史』と同月に出ていた一冊。発売日に買ってしばらく積んでいたんですが、岡本先生の別の本を読む機会があったのでこちらも読んでみました。
 なんで現代の中国がああなのか、というところを歴史を辿って分析してみよう、という本。現代的な関心についてはちょっとこじつけではないのかという気持ちが無いではないです。というのは、岡本先生は『中国「反日」の源流』なんていうタイトル詐欺みたいな本(中身は日中関係の真面目な話です)を出している事実があるので……。
 それはさておき、本書では中国の意識の上での内外の乖離、上下の乖離、というところを歴史的に見ていく、という方針を取っています。個人名はあまり重要ではありませんが、例外として近代中国の立役者として梁啓超のみはやや扱いが大きくなっています。
 分析は社会構造寄りなので、その分現実との絡みでややややこしくなっている部分はありますが、そのあたりは檀上『天下と天朝の中国史』を一緒に読むことですっきり整理できると思います。


■亀田達也『モラルの起源――実験社会科学からの問い』
 サブタイトルをよく見ずにてっきり規範倫理学ないしメタ倫理学の本かと思って手に取ったんですが、記述倫理学の一冊でした。それも歴史学・人類学寄りの分析ではなく、実験を通じて我々のモラル観の成立について考察しています。取る手法が心理学、ミクロ経済学から理系に属するものまで非常に横断的なのでなかなか一言では説明しづらいのですが、やれカントだロールズだサンデルだシンガーだと、倫理や正義についてつい演繹的に考えてしまいがちな時に、立ち止まってそもそも我々は本当はどう振る舞っているのか、ということを省みるには非常にいい本ではないかと思います。
 文章は平易なのですが、なにぶん扱う方法が多岐にわたるので一読では総体が把握できないかもしれません。またいずれ再読したい本です。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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