近況・新刊情報と最近読んだ本など

 すっかりご無沙汰で広告が出てしまってましたが、ブログ更新せずに何をやっていたかというと事情があって9~10世紀のバグダードの世相、文化、人物なんかについて調べていました。まだ宗派対立・宗教対立が顕在化せず、色んな人間が技術や知識や資金を持ち寄って社会を作っていっていた時代である一方、街には任侠・無頼の徒が闊歩し貧富の差も広がり始めていた頃ということになりますが、なかなか色んな面から切り取れて面白いところです。

 ところで、『サマルカンド年代記』や『エイレーネーの瞳』を放送してきたNHKラジオの「青春アドベンチャー」枠で知人の同人誌が原作の「斜陽の国のルスダン」が放送されるようです(詳細はこちら)。モンゴル侵攻期の中世グルジアが舞台のお話です。是非チェックをば。

 さて、新刊情報。
 吉川弘文館からは8月に人物叢書から『源頼義』が。源氏全体としてはややマイナーかもしれませんが、それでも該当時代の重要人物です。
 講談社現代新書8月は岩崎周一『ハプスブルク帝国』。448頁ということなのでかなり分厚い本になりますね。(何度か言った気もしますが)現代新書は最近メチエに色々吸い取られているのか元気がありませんが、頑張って欲しいところです。
 同じく講談社の学術文庫9月では興亡の世界史の収録が再開されています。今回は『地中海世界とローマ帝国』。文庫サイズでローマ史をざっとさらう分には便利な本になるのではないでしょうか。
 白水社9月にユージン・ローガン『オスマン帝国の崩壊――中東における第一次世界大戦』というタイトルが挙がっています。とうとう邦訳が出るかと思うとなかなか感慨深いものがあります。これはもうマストアイテムでしょう。
 予定は未定ですが岩波現代文庫に年内に『ラディカル・オーラル・ヒストリー』が収録されるようです。これもいつか読まねばと思いつつ先延ばしになっていたので確保したいところ。

 以下、最近読んだ本(今回は2冊)。
 

■亀田俊和『観応の擾乱――室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』
 ややこしい南北朝時代の中でも、北朝側室町幕府の内乱でしかも内乱の当事者それぞれが時期によって南朝に降るという極めつけにややこしいのが観応の擾乱なわけですが、中公からこの擾乱の分かりやすい新書が出ました。
 基本的には足利尊氏とその弟直義の戦いになるんですが、佐藤進一先生以来の通説を点検し、尊氏-師直派と直義派の構成にさほど質的な差が無かったとしており、また尊氏は基本的に乱の前半は全然やる気が無かったことや、また良くて地味な二代目、悪ければ無能扱いされていた足利義詮が案外アグレッシブに事態を引っ張っていることなど、これまでの南北朝概説とは色々見えてくるものが違って非常に興味深いところ。
 さらには直義挟撃時の赤松則祐と佐々木道誉の南朝への投降が偽装ではなく本気だったのではないかという考察も面白いです。亀田先生の則祐だと、親父の円心がドライに計算で動くのに対し情に厚いところがあった人間のように読めます。
 なお呉座先生の『応仁の乱』に引き続きということになりますが、あっという間に3万部の重版が決まったようでめでたいことです。この調子で続けてもらって南北朝・室町大河が再び放送されたりすると良いのですが。


■林望『習近平の中国――百年の夢と現実』
 林さんは新聞記者出身の方ということで若干警戒しながら読んだんですが、中々面白い本でした。
 冒頭で薄煕来事件について触れられてまして、私事なんですが大学在学当時、中国史の先生が薄煕来事件について香港メディア経由で情報に齧りついていたのを思い出します。
 重要なのは中国共産党の近現代史を踏まえて習近平体制を分析しているところで、そのあたりは上っ面だけ時事解説した本とは異なる点でしょう。習近平本人については彼がいかなる問題意識を持っているのか、それに対してどう向き合ってどう対応したのか、そしてそこから生じる問題は何か、といった体の展開になっています。なんだかんだで十三億人を食わせてきた中国共産党であるものの、そこから得られる自信こそが異論を封じ問題を見えなくしている、という指摘はまさにその通りでしょう。
 習近平は「中華民族の夢」を語っており、これは本文中説明がないんですが「漢民族」でないあたり費孝通が提唱した概念をもとにした複数のエスニシティを含む単一のネイションとしての「中華民族」というところでしょう。実際、中国メディアはある種の少数民族に対するポリコレには敏感なところがあります。さりとて、当の少数民族自身がどう思っているか、というのはまた別の話。
 「中華民族」の件も含めて、最近出た手頃な新書だと岡本『中国の論理』、小野寺『中国ナショナリズム』、林『習近平の中国』の順番で読むとより理解が深まるのではないかと思います。習近平の評伝としてよりも中国現代史として秀逸な一冊でしょう。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は掲示板か拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
リンク
アクセスカウンター
月別アーカイブ