油井大三郎『ベトナム戦争に抗した人々』


 世界史リブレットの一冊。
 
 ベトナム戦争はアメリカ合衆国始まって以来の「敗戦」となった戦争だが、その終結への道筋には政府関係者だけでなく民間の反戦運動も多く関わっていた。本書は、そのベトナム戦争の終戦に対し、アメリカ国内の反戦運動がいかなる役割を果たしたのかを概観している。

 時系列的な展開自体は順を追って説明されていくのだが、まずもってベトナム戦争への反戦運動は最初は一枚板ではなかったという点が前提として重要だろう。リベラル派、社会党や共産党などの旧左翼、そしてソ連のやり方に不満を持つ新左翼などその幅は広かったのだという(本書では、各派各組織についてある程度頁を割いて解説してある)。
 しかしながらその現状にも関わらずこれらをまとめ上げたキーとなるのが「非排除原則」で、ベトナム戦争への反戦という目的に賛同すればいかなる組織も排除しないとした。反共系のリベラル派がこれに反発するなどの事態は引き起こしたものの、結果的にこれは反戦運動に関しては諸組織の大同団結を可能とし、ジョンソン政権の和平交渉への転換に一定の役割を果たすことが出来たのだと著者はいう。戦後の日本における左派の(特に新左翼系の)いわゆる内ゲバ傾向と比べた時にこれは際立つ。
 本書の記述を追っていく限り、停滞や部分的な分裂は見られるが、最初期にこの非排除原則を掲げ一定の成果を収めていた経験が後々まで効果を発揮していたように読める。政権側の失策(実際の戦況展開と裏腹の説明をしてしまったことなど)もあれど、この効果はやはり重要だろう。

 他、興味深い点としてはベトナム戦争の反戦運動が盛り上がったのが64年の公民権法制定直後であり、公民権運動の影響が直接・間接に見られること(晩年のキング牧師も反戦運動に加わったことはよく知られている)、反戦運動に参加した面子にノーム・チョムスキーなどちょくちょく有名な学者の名前が見られること、運動の展開の要所要所で世論調査の結果が掲載され、世論の傾向を見えるよう工夫してある部分などだろうか。
 アメリカは歴史が浅く歴史書のシリーズでも取り上げられることが少ないのだが、本書はなかなか興味深い一冊であった。
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鉄勒京二

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