小泉龍人『都市の起源』


 副題は「古代の先進地域=西アジアを掘る」
 古代オリエント(就中、メソポタミア)は文明の興った最古の地であるとされている。この地はまた、最古の都市の興った地でもあるとされている。本書は、考古学の知見を元に西アジアにおける都市の発生についての考察を一般向けに解説した一冊である。
 
 著者はまず、広く考古学者たちに用いられているG.チャイルドの「都市革命」論による最古の都市の定義を引いた上で、著者自身の定義を紹介する。チャイルドの定義のうち、考古学的に検証できる要素に絞ったもので「都市計画」「行政機構」「祭祀施設」となる。この基準を用いると、かつて世界最古の都市として知られていたパレスチナのエリコは都市ではないらしい(どうやら、エリコ遺跡は新しい時代の遺構が上に重なっている関係で、古い時代のイメージに新しい時代のイメージが投影されてしまったらしい)。
 著者の規準を用いて世界最古の都市を探すと、それは南メソポタミアのウルクとなり、これは多くの考古学者の意見と一致する。
 ではなぜ、南メソポタミアで都市が誕生したのだろうか? 著者は自然環境にその原因を求めている。環境の変化が集住化をもたらすことは容易に想像できるが、特に南メソポタミアにおいては海水面の上昇により沖積平野に暮らしていた人々が特定の集落へと集まっていくことになる。集落にとっての「よそ者」の発生である。
 「よそ者」は集落が都市化する前提となる一定の人口密度を準備すると同時に、余剰生産物の管理の必要性や、元の居住地の違いによる知識の違いからなる分業化を推し進め、非農業従事者の住民が生まれていくというわけだ。ここまでくれば都市へはあと一歩である。

 以下、最初期の都市における都市計画、「都市化」の拡散、祭祀施設の具体的な解説へと話が進んでいく。この部分で個人的に面白かったのは貨幣の起源であると思われる銀のリング・インゴットが初のコイン貨幣を産み出したメディア王国期(紀元前600年頃)に先駆けてアッカド王朝時代(紀元前2300年頃)に既に見られるという話か。これは財物の管理の権限の発達と関わっているようだ。

 なお細かい話になるが、冒頭で紹介されているハブーバ・カービラ南がウルクのコピー都市であるとするはっきりとした論拠は本文中にはない。参考文献一覧にある著者の論文を確認したところ、神殿建築、土器、絵文字粘土板などがウルク遺跡出土のものと非常によく似ていたことからこの二つの都市が密接な関係にあるということが予て想定されており、90年前後の研究では既にウルクの「植民都市」とされていたらしい(もっとも、中心と周縁の関係はそう単純なものではなくこの文脈における「植民」の語は死語になっているという)。

 本書は都市の起源を探ると同時に、メソポタミアにおける一般的な都市の発生の仕方を順序立てて追うこともでき、興味深いと同時に手元においておくと便利な一冊であると言えよう。
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鉄勒京二

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