近況・新刊情報と最近読んだ本など

 今週末から神田神保町で古本まつりのようです。学生時代に一度行ってきりでご無沙汰なのですが、なかなか予定があわず……。とは言え、土曜日には京都の国宝展に行くのでそちらを楽しみにします!
 もうひとつ、しばらく前の話ですが映画『関ヶ原』を見てきました。司馬遼太郎が画面に出るのには笑いましたが、あの長さの小説をよくよくまとめて映画にしたなあという感想です。いきなり秀次事件から始まるので予備知識のない人にはちょっと難しい部分もあるかもしれませんが、三成役の岡田さんにせよ左近役の平さんにせよはまり役で、また事前にあまり注目はしていなかったんですが東出さんの秀秋がとても人間味があっていい映画でした。

 さて、新刊情報。
 戎光祥出版の「実像に迫る」シリーズ、来月の新刊は石渡洋平『上杉謙信』の模様。そういえば謙信についての本って読んだことなかったなあと思うのでこの機会に。
 河出からは本邦でのアレクサンドロス研究の第一人者森谷公俊先生の新刊が出るようです。タイトルは『アレクサンドロス大王 東征路の謎を解く』。3700円384頁とのことでけっこう重量級の内容になりそうですね。発売予定は11月22日。
 ちくま学芸文庫11月には『応仁記』が……昨今のブームに乗ったわけではないんでしょうが、いいタイミングで出ることになったようで。
 中公新書11月からは服部英雄『蒙古襲来と神風――中世の対外戦争の真実』 と、小川剛生『兼好法師――徒然草に記されなかった真実』 。服部先生は山川から蒙古襲来について大冊を出していますし、小川先生はしばらく前から兼好法師についてのかなりインパクトの強い新説を発表されてますので、いずれも新書で読めるというのは大変ありがたいことです。

 以下、最近読んだ本。
 

■平井上総『兵農分離はあったのか』
 最近創刊された平凡社の「中世から近世へ」というシリーズの一冊です。
 兵農分離は中世と近世の境目にあたる時期の一大トピックでして、(主に中世史側から)近年その実態について通説に疑義が提示されているようです(著者の平井先生もご専門は中世と中近世移行期の模様)。本書はその兵農分離について真正面から取り扱っているということで、ホットなトピックが読める一般書という大変ありがたい本になっています。
 冒頭部分で重要なことは、兵農分離が近世の要素を説明する際になんでも説明できてしまう便利なラベルになっている現状に鑑み、まずひとくちに兵農分離と言っても先行研究が何を重視しているかを腑分けし、兵農分離という言葉で何が指されているかを五つに分け、それぞれの要素について検討を加えるという方法を取っているということです。兵農分離に限らず、何らかの歴史学上の概念について検討する時に手本になるような書き方と言えるでしょう。
 細かい論証については本書を読んでいただくのがいいと思いますが、近世に入って実現されたと思われていたことが実は中世期に既に存在していたり、逆に近世に入って消滅したと思われていたものが存続していたり、例外として片付けられていた事例が案外広く見られたりといったこともあるようで、案外「兵農分離」というのも足元のおぼつかない概念だったのだなあと。
 結果的に兵農分離の状態にはなるものの、それは兵農分離を目指した結果ではなく、別の目的を持って行われた他の政策や環境の変化の結果そういう状態になった、というのが本書の結論です。
 中近世の境界期は兵農分離に限らず中世史側と近世史側で色々と認識の齟齬があるようですがこのシリーズには今後共期待したいと思います。


■大倉隆二『宮本武蔵』
 人物叢書の紹介をするのも随分久しぶりの気がします。一人暮らしをはじめてから西アジア史関連を優先して現住所に持ってきていたので人物叢書はまとめて実家に置いていたのですが、ちょっとした事情で武蔵に興味がでてきたので実家に帰る機会があった時に持ってきました。
 宮本武蔵というのも知名度が高い割にはっきりしたことがあまり分からない人物のようで、巌流島の果し合いにしても(一般にいわゆる佐々木小次郎と言われている)対決相手の姓すらよくわからないという始末の模様。また、わずかながら分かっている事実についても一般的なイメージとは乖離している場合があり、例えば武蔵の関ヶ原参戦は西軍ではなく東軍側、黒田勢であるとの説が最近は有力なようです。
 200頁ほどの本ですが、武蔵の生涯をたどるのは半分ほどで終わり、以降は武蔵の作品(とされているもの)について真贋の検討や武蔵の生涯をたどるにあたって根本資料とされてきた小倉碑文の史料批判などが行われています。
 武蔵の絵からは兵法家としての勇ましい心境というより、どちらかと言うと晩年の病気がちな時期の武蔵の心境が反映されているのでは、といったような指摘は納得できるところでした。


■松山洋平『イスラーム思想を読み解く』
 『イスラーム神学』の松山先生の本がちくま新書から! ということでこれは読まねばなるまいと発売日に買ったんですが紹介が随分遅れてしまいました。
 かなり時事を意識した書き方になっていてジハーディスト、特にダーイシュについての言及も多いのですが、それはそれとしてイスラームにおける宗教言論の対立や議論について現代にいたるまでの流れと現状がまとめられていて読み応えがあります。ただ、著者なりの今後の見通しは立てているもののだから我々がどうすべきか、という点については何も示していません(もちろん、それを期待するのは筋違いなのですが)。あくまで現状把握のために読む、と割り切るのがいいでしょう。
 私は思想・哲学方面より歴史学寄りなのでちょっと原理原則的に見すぎではないかと思う点(特に実社会に言及する際)もないではないんですが、いずれにせよ、ある程度イスラームについて知った上でさらに一歩踏み出す上では本書は必読書となるでしょう。
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鉄勒京二

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当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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