近況・新刊情報と最近読んだ本など

 先の近況報告で書いた通り京都の国宝展に行ってきましたが、個人的な目玉は後宇多天皇の宸筆でしたかね。後宇多天皇と言えば大覚寺統の非後宇多流と持明院統の双方を抑え中継ぎ天皇として後醍醐帝を立てたというかなりの豪腕政治家ですが、書跡の部で展示されており、どちらかというと仏教関係者(最澄の真筆も!)ゆかりの品が多かったところにポンと出てきたので思わず目を剥きました。
 年末は忙しくなってきそうな気配ですが、余裕のある時に年内あと一回くらい遠出しておきたいなあと思っています。まあどうなるか分かりませんが。

 さて、新刊情報。
 まずは来月の12月分。
 世界史リブレット人新刊は中島毅『スターリン――超大国ソ連の独裁者』。割と最近中公新書でスターリンの評伝が出ましたが(レビューはこちら)、違いがどう出るのか気になりますね。
 珍しいところから出ますが、集英社のインターナショナル新書から廣瀬匠『天文の世界史』という本が。著者は南インドの天文学などについて造詣の深い方のようで、ヨーロッパに偏らない文字通りの世界史になりそうです。
 作品社からはイブン・タイミーヤ『イブン・タイミーヤ政治論集』。編訳及び解説は(まあ他にはいないだろうというところですが)中田考氏。
 中公新書では佐藤彰一『剣と清貧のヨーロッパ――中世の騎士修道会と托鉢修道会』 、アリステア・ホーン『ナポレオン時代――英雄は何を遺したか』あたりが面白そうです。
 吉川弘文館の歴史文化ライブラリーは時々世界史ものを出しますが、12月分の新刊に古畑徹『渤海国とは何か』というタイトルが挙がっています。

 講談社学術文庫ではハードカバーで出ていた「天皇の歴史」シリーズが収録されるようです。このところ興亡の世界史といい天皇の歴史といいハードカバー本の文庫収録が続きますが、「中国の歴史」シリーズは相変わらず音沙汰がありませんねえ。

 以下、最近読んだ本。
 

■澁谷由里『馬賊の「満州」――張作霖と近代中国』
 張作霖に関しては今年の頭に杉山裕之氏の『張作霖』というハードカバー350頁のけっこうな本が出ているわけですが、本書はそれより前に選書メチエで出ていた『馬賊で見る「満州」』の文庫版になります。馬賊について扱っているのは冒頭部と、最後の方の日本人と馬賊の関係について扱った部分のみで、(張作霖の経歴を考えると当たり前と言えば当たり前なんですが)けっこうな部分が軍閥の「満州」のような体になっています。
 中身については張作霖政権の実態について、軍事以外の面にも多く頁を割いている印象です。特にシヴィリアンの代表としての王永江の活躍には目を見張るものがあります(もっとも、彼の死後グズグズになってしまうあたり、まだ個人の才覚に頼る必要のあるシステムしか作れていなかったのかとも思いますが)。杉山『張作霖』はやや活劇調寄りでしたが、筆致はこちらの方が落ちついている感じ。杉山本を読む前にこっちを読んでおく方が順番としては望ましいかもしれません。


■黒田龍之介『外国語を学ぶための言語学の考え方』
 なんで買ったのかすっかり忘れてしましましたが何年か積んでいた本です。アラビア語を勉強しようしようと思いつつアルファベットを半分覚えたところで放り出して長いわけですが、それとは全く関係なく、読み物として面白いという話を最近見たので本棚から引っ張り出して読んでみました。
 基本的に語り口は穏やかなんですが、その穏やかな文体のまま時々強烈な皮肉が紛れ込むのが面白いところ。外国語学習法というよりは、外国語を学ぶための心構えについて、言語学的な裏付けをもとに語っていくエッセイのような本だと思うといいでしょう。


■アブー・アブドゥッラフマーン・スラミー『フトゥーワ――イスラームの騎士道精神』
 これまた珍しいものが刊行されたなあという一冊なわけですが、原義は「若者らしさ」であるところの「フトゥーワ」について述べた10~11世紀の著述家の本の和訳です。
 副題は「イスラームの騎士道精神」となっているわけですが、『イスラム社会のヤクザ』で述べられている通り、バグダードのヤクザ(アイヤール)たちが掲げたのもやっぱり「フトゥーワ」だったので個人的には「義侠心」とかの方が訳としてはしっくりくるかなあというところ(中田考氏も巻末の解説で「任侠道」という言葉を挙げています)。
 基本的には徳目集で、前後矛盾の排除なんかにはあまり気を使っておらず、体系だったものではありません。ただ当時どういった価値観が理想視されていたのかという点については非常に参考になるかと思います。
 また、武人である騎士と宗教者である修道士の徳目というのはヨーロッパにおいてはある程度分離していたと思われますが、フトゥーワに関してはそもそもこの本の著者のスラミーがスーフィーであるというところからわかるように(元来イスラームが聖俗を区別しないとは言え)、武人の心得とは限らないというところにも注意しておくべきでしょう。
 
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鉄勒京二

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