近況・新刊情報と最近読んだ本など

 今年最後の近況記事になりそうですが、今年もお世話になりました。

 年間読書は去年に比べれば相当ペースが落ちているものの、なんとか歴史を含む人文関連で50冊を突破というところでした。アウトプットは若干増えましたが、ブログに載せられるようなものではなかったので更新頻度は落ち気味だったかもしれません。

 大河ドラマも無事完結ということで、戦国大河は地方編の方が面白く、中央に出ていってしまうと毎回同じような展開になってしまうなあと思っていたのですが、今年は一年を通じて井伊谷の話で、地元の百姓たちも準レギュラーとしてほぼ丸一年出演していましたし、非常に珍しい面白い大河ドラマでした。さて、来年の西郷どんはどんな風になるのか。

 では新刊情報。
 講談社選書メチエ1月、斎藤慶典『「東洋」哲学の根本問題――あるいは井筒俊彦』。この著者と井筒俊彦の組み合わせというと結構まさかだろ感があるんですが……期待と不安の両方がかなり大きい本です。メチエのもう一冊は上垣外憲一『鎖国前夜ラプソディ――惺窩と家康の「日本の大航海時代」』。
 岩波新書1月には末近浩太『イスラーム主義――もう一つの近代を構想する』。ヒズブッラー(ヒズボラ)関連で研究書を出している末近先生の新刊です。
 勉誠出版2月、堀田あゆみ『交渉の民族誌――モンゴル遊牧民のモノをめぐる情報戦』。出版社サイトでの分野分けは民族学となっていますが、経済学にも絡んできそうな雰囲気です。

 以下、最近読んだ本。
 

■菊地達也[編著]『図説イスラム教の歴史』
 よくあるイスラーム概説かと思いきや、編者がイスマーイール派研究で有名な菊地先生ということで購入(菊地先生は「イスラーム」ではなく「イスラーム教」表記を採用する立場)。
 このシリーズは豊富な図版が特徴で、解説については通り一遍のことしか書いてないこともあるですが、この本に関しては事前の読み通りシーア派についての記述が詳しく、文章面でも読み応えのある一冊となっています。
 章立ては時系列順ではなく分野別。全7章ですが、そのうち第四章をシーア派とイランに割いているということになります。
 イスラーム科学/アラビア科学の部分に関しては医学史の部分で(分量そのものはほんの少しなのですが)内科学、薬学に偏りがちなところ、外科学についても記述があり、ここが収穫。
 最後の第七章は「サラフ主義と「イスラム国」」(執筆者は西野正巳先生)と題して近現代のイスラーム主義やサラフ主義関連の話題となっているわけですが、本書ではイスラーム主義とサラフ主義を弁別する立場を取っています。この部分は現代イスラームを理解する上で、俗流のイスラーム本とは少し違う理解の仕方になっているので読み込んでおきたいところ。


■中村元哉『対立と共存の日中関係史――共和国としての中国』
 叢書東アジアの近現代史シリーズの第二巻。既に第三巻も出てしまっているので読んどかねばということで手を付けました。
 タイトルは日中関係史で確かにそういう面もあるんですが、むしろ副題の「共和国としての中国」の方に重点が置かれている印象。
 中国法制史、特に憲政史に軸足を置いた中国近現代通史といった形でしょうか(時に司法も絡む)。日本との関わりで言えば、日本の法学書の中国語訳や、(意外なことに)美濃部達吉の学説が中国で高く評価されていたことなどが述べられています。日中関係、米中関係、中ソ関係についても憲政史という視点から眺めると普段意識していない関係性が浮かび上がってきます。
 通り一遍の通史かと思っていたらこういう本だったので、是非他の中国近現代通史と併読をおすすめしたい一冊になっています。ちょいちょい法学関連の用語も出てきますが、さほど読むのに苦労はしないでしょう。


■石渡洋平『上杉謙信』
 謙信についての本ははじめて読んだんですが、彼と戦った同時代の武田・北条がけっこういろんな事が分かっている(特に北条は文書の残り方が良く、統治機構の再現なんかも進んでいる)のに比べて上杉ってあんまり分かってる事多くないんだなあという印象を受ける本でした。
 とは言えそこはそれ、講談以来の「義の武将」イメージからは距離を置き、彼の統治者としての立場から彼の行動を読み解こうという著者の意図はけっこううまく行っているのではないかと思います(まあ大名なのですから個人の志向や考え方だけで動けるわけもないのは当然と言えば当然)。突然の引退宣言なんかもある程度裏に政治的意図があったのではないか、という見方を本書では取っています。
 一方で私的な部分が伺える書簡も紹介されており、そこでは景勝に対する温かい思い(本書では「子煩悩」としています)が垣間見られます。のちのち「軍神」と言われるようになる大名であれ、人間だったんだなあというところでしょうか。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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