近況・新刊情報と最近読んだ本など

 遅くなりましたがあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。昨年研究書をほとんど読んでいなかったことに気付いたので、今年は年始から研究書を読んでいます。今年はもう少し研究書・論文に時間を割けるといいのですが。

 ところで、2011年8月のイスラーム特集以来なので3年半振りくらいになりますが、Penの2月1日号を買いました。今回はアラブ特集なんですが、印刷が良いのと解像度が高いのとでやはり写真が美しい(なんと『マカーマート』写本に掲載されている例の有名な13世紀の図書館の挿絵が一頁まるまる使って載っている)のが素晴らしいですね。ついつい我々は歴史の方に目を向けてしまうんですが、アラブ圏の現代建築や芸術家たち、アラブ映画等についても書いてあるなど、なかなか面白い内容でした。


 もう一つ、東京国立博物館で「アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝」と題してサウジから借り受けた展示物を公開しているようです。サウジ入国は例外はあるにしろ基本的にムスリムでないと無理なので、この期を逃すとたぶんずっと見れない物が多そうな雰囲気です。会期は3月18日までなので、なんとか時間を見つけて行きたいところですが。

 さて、新刊情報。
 日本史リブレット人3月には山家浩樹『足利尊氏と足利直義――動乱のなかの権威確立』 。昨今の室町ブームに乗っかったわけではないのでしょうが、やっと室町幕府の創設者の巻が出ます。もう一冊は永井和『西園寺公望――政党政治の元老』。
 ミネルヴァ書房2月、日本評伝選シリーズから黒田基樹『北条氏政――乾坤を截破し太虚に帰す』。氏政は大河ドラマ真田丸での活躍が印象的ですが、真田丸で時代考証を担っていた黒田先生の氏政本ということになります。ここ最近ミネルヴァ日本評伝選は手が遠のいていたのですが、これは買おうかなと。
 大阪大学出版会から2月末、宮下遼『多元性の都市イスタンブル――近世オスマン帝都の都市空間と詩人、庶民、異邦人』。文学史の研究者の方の専門書のようですが、社会史としても面白そうです。
 創元社の創元世界史ライブラリーから中平希『ヴェネツィアの歴史――海と陸の共和国』。発売日は3月。
 平凡社から新書で小原克博『一神教とは何か――キリスト教、ユダヤ教、イスラームを知るために』。同志社系の一神教本なので大外れということはないでしょう。また、非常に驚いたのですが完結した中世思想原典集成に続シリーズが出るようです。なんとまあアレを完結させただけでとんでもないことだと思うのですが、続きまで出るとは。第一弾はトマス・アクィナス『真理論』の模様。

 ほか、講談社学術文庫には以前ちくま新書から出ていた鈴木董先生の『オスマン帝国の解体』が収録されるようです(どうしてちくま学芸文庫ではなく講談社学術文庫なのかは謎)。

 以下、最近読んだ本。
 

■末近浩太『イスラーム主義――もう一つの近代を構想する』
 ヒズブッラー(ヒズボラ)研究で既に単著を出されている末近先生の新刊。イスラーム主義の多様なあり方と、その主流の移り変わりを述べた一冊となっています。イスラーム主義が社会に関与するとき、その現れ方は一様ではなく、本書で扱われているのは思想、運動、革命、武装闘争やテロリズム、政党・政策など、となっています。テロリズムを想定しがちな視点を相対化するにはいい本でしょう。
 内容としてはオスマン帝国の崩壊と、アフガーニーらによるイスラーム主義の出現から、「イスラーム国」に至るまで、加えて今後の展望も扱われています。個人的には参考文献リストに既読のものが少なくないこともあり割とどこかで読んだことのある話も多いのですが、それでもこれだけの内容が読みやすく一冊にまとまっているというのは大変なことです。
 気をつけないといけないのは、まずイスラーム主義の主的な潮流の入れ替わりについてその事実と原因については十分に書き込まれているものの、伏流と化したかつての主流や、ある時点で未だ主流となっていない伏流について、複線的に見ていくという点が少し弱いところ。この頁数でまとめているのでやむを得ないところではあるのでしょうが、近先生がイスラーム主義を「複雑で豊かな」ものである、と述べている以上、やはり複数のイスラーム主義が同時代に共存しているさまについてある程度頁を取ってほしかったところはあります。
 もう一つは本書は思想史と政治の交錯するところに焦点があるわけで、当然イスラーム主義の政治や大衆運動への影響などが記述の中心となっていきます。しかしながら、政治や社会を動かしたり、そのあり方を規定したりするのは宗教だけではありません。イスラーム主義に多様性があることは本書でも述べられていますが、その多様性あるイスラーム主義という括りもまた、ファクターの一つに過ぎない、ということです。これについては本書のテーマ上こういう構成になるので、別に不備だという話ではないのですが、忘れないようにしておきたいところです。これについては下の酒井先生の本を併読するといいかと思われます。
 

■酒井啓子『9.11後の現代史』
 中東政治がご専門の酒井先生の新刊。ここのところ勢いがない現代新書ですが、この本は個人的に久々のヒットかなと。
 なお、こんなタイトルですが(末近先生の上の本もそうですが)中心になっているのは中東政治です。例えば9.11後のアメリカの政策について個別に見てこの事件の影響を考察したり、また巨大なムスリム人口を抱える南アジアの政治の状況を考えたりといった記述はほぼありません。
 末近先生の本が思想史と政治学の交錯するところを切り取ったものだとすれば、こちらはもっと時事的に扱われる内容をある程度長いスパンで並べて整理したもの、という印象。その分見通し良く、かつ読みやすくまとまっています。また、末近先生の本でも触れられていた「過激主義のイスラーム化」(≠「イスラームの過激化」)に寄った解説がされており、現状について、宗派主義に回収されない様々な要因についても検討されています。
 池内先生や横田先生の本で読んだような分析や上の末近先生の本と被る記述もちょくちょくあるんですが、それとは別にいくつか興味深い点を挙げるとすれば、まず一点目がサウジアラビアの立ち回りでしょうか。あの国はとにかく体制が揺らぐことを恐れるので、アラブ民族主義による共和化であれ、イラン式のイスラーム革命であれ、アラブの春の民主化運動であれ、回避しようと動き、場合によっては積極的に干渉していくという。
 二点目はヒズブッラーの人気がアラブの民衆の間では宗派問わず高かったということ(ヒズブッラーはシーア派の組織です)。レバノン南部で故郷防衛のためにイスラエルと戦い、不甲斐ない周辺の国軍と違いそこそこ善戦した事が評価されていたとのこと。ただ、シリア内戦でアサド政権側に付いたことからその株を大いに下げているようです。
 また、現在の中東情勢において、(状況が改善しているわけではないにも関わらず)パレスチナ問題が後背に退いているという点については全くその通りだなあと実感するところです。誰が一番の被害者かを競うような状況ができてしまっていることは実に不幸なことですが、酒井先生の言うとおり今少し冷静さを持って考えたいものです。
 巻末に参考文献一覧は付けてほしかったなあとは思いますが、それはそれとして読んで損はない一冊だと思います。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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