下斗米伸夫『アジア冷戦史』



 アジアの冷戦について、主に東アジアを中心に述べた通史。
 
 冷戦はチャーチルが述べた「(ヨーロッパ)大陸を分断する鉄のカーテン」の東西のみで起こっていたわけではない。アジアでも国共内戦を経て中華人民共和国と中華民国(台湾)は海峡を挟んで対峙し、朝鮮半島では朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国が南北に別れた。他にも東南アジアでも社会主義政権の成立、国の分裂、代理戦争としての熱戦などが展開している。
 本書はアジア冷戦をタイトルに冠しているが、より正確に言うならば東アジア冷戦史であろう。中心となるのは中国と朝鮮半島での展開であり、事情が詳しく説明されているのは社会主義陣営の方になる(ということで、例えばモンゴル、ベトナムやアフガニスタンの社会主義政権などについては一定頁は割いてあるものの全体を通じてはあまり中心的な話題とはならない)。著者の下斗米伸夫氏は主にソ連史などを専門とする研究者であり、本書ではソ連の東アジアへの関与の仕方(あるいは、不干渉の態度を取った場合、その原因について)などに詳しい。

 内容としては中国内戦の展開、中ソ対立の詳しい経緯、北朝鮮情勢へのソ連の関与の消極性、北朝鮮の諸社会主義勢力(中国派、ソ連派、旧満州国で抗日運動をしていたゲリラ派、国内派の四派)の角逐、などが興味深い。
 個人的には東アジアでは帝国的秩序が完全に国民国家体制に移行しないままに社会主義政権の樹立に至った、という指摘について、改めて考えるとたしかにその通りであるとの気付きを得た。

 本書を読むと分かるのだが、東アジアの冷戦においては、ソ連の関与の不均一さと、中華人民共和国というソ連の衛星国には収まりきらない巨大な国家の存在により、東側陣営内部でも早くから多極化が進んでいた。ここがアルバニアやユーゴスラビアなどの一部の例外を除きソ連の衛星国となってしまったヨーロッパの東側陣営との違いであり、東アジアの冷戦史の興味深いところであろう。これらの事柄について、新書一冊で読めるというのは大変貴重なことであると言える。2004年の出版であり、新たに研究が進んでいる部分もあるのだろうが、ある程度の見通しを得るためには未だ価値があり、ぜひ最初に読みたい一冊だ。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は下記メールフォームか拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセスカウンター
リンク
月別アーカイブ